異世界の果て 13

「異世界の果て……現実、ってやつだ」

 タジにとっては数ある異世界の中の一つだとしても、その異世界全てを作りだす原初の場所、時空間。それがこの世界だ。

「妙に狭苦しい空間だがな」

 無数の星に見える光。

 それは壁に埋め込まれた発光体によるものだ。判然とする視界が捉えるのは、その壁が、その発光体と発光体が埋められた何かを積み上げて収納している様子。

 何か、などという曖昧な見え方も直ちに改められる。目を凝らせばたちまち焦点がそれに合い、薄暗い部屋の中にあってもその正体が判明する。

「トライアングル」

「そう、意思の情報によって作られた壁が無数に折りたたまれた場所だよ。ここには意思を持つ生命体の情報の全てが集まっているんだ。……いや、言い方がちょっと違うかも知れないな。僕はここ以外に生命体の情報がどこにあるか知らない」

 真空の空間である。

 本来ならば、生身の肉体でその場にいれば、普通の生物であれば数分と経たずに死んでしまうだろう。そんな命の理を無視して、タジはその場に一個の命として存在していた。

「それはつまり、この場所以外に意思ある命は存在しないと言いたいのか?」

「少なくとも、この僕を作った、君と姿形を同じくする生命に類する知性や意思をもった存在を、僕が生きている間は一度も見たことがない」

 ディダバオーハの「生きる」と言う言葉も「見る」という行為も、つまりは彼が人間によって作られたことを意味するのだろう、とタジは思った。

 神は人を自身に似せて作った。と、されている。

 だとすれば、ディダバオーハの言動もまたそれを作った存在に似て作られているに違いなく、その中で輪廻のように神と人間の役割は巡っている。

「ディダバオーハ、お前の口から聞きたい。この場所は、一体何だ?」

「地球だよ。もっとも、君が想像している……いや、君たち意思ある存在が空想と理想の中に求めている母なる星の姿とは、似ても似つかないけれどね」

 似ても似つかないどころではなかった。

 空も海も大地もなく、真空に作られた壁ひだに意思を封じ込めた無数の正四面体が連なっており、それを唯一神と名乗る人工知能のような存在が管理している。

 管理される意思は、その力によって世界を形作ることを強制され、しかもその世界は意思そのものを邪気や悪意と見做している。

「はッ、とんだディストピアだ」

「しかしそれこそが、君たち意思ある者の望んだ理想なんだよ」

「バカを言え!誰がそんな悪意に満ちた世界を望むって言うんだ!?」

「だってそうだろう?タジ、君だって彼女を我が物にしたいと願い、そして我が物にできないと分かったら殺してしまうんだから」

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