盗人の城 23

 大きな宿場町は、前線への補給基地の様相を呈していた。

 町には活気があったが、乱暴な、殺気立った雰囲気も感じられる。道には騎士が常駐しており、物々しい雰囲気がピリピリとした空気を醸しているようだ。

 若い男の騎士は、宿場町への道中で自らをルオムと名乗った。先導するルオムに一部の隙も無く、道々で騎士と朗らかに挨拶を交わす中でも意識の大半はタジに向けられているのが分かった。

「青いが、いい張り詰め方をしてると思うよ」

「いまさら褒められても嬉しくねえよ」

 この町を守る騎士が大手を振って町の奢侈な施設を使うことは許されないらしい。宿場町に入って一直線で向かった粗末な駐屯所の奥にある小さな小料理屋は、騎士連中が利用できる唯一の酒場でもあり、そこでなら多少のハメを外してもよいという。

 店員に案内される間もなく机を一つ占拠すると、ルオムは火酒を注文し、タジもそれに倣った。昼間から酒を飲んで良いのか、というタジの問いに、夜は眠る時間だ、と答えて。

「ここなら盗み聞きするような奴はいねえよ」

 騎士団の駐屯地の更に奥である。

 ここに盗み聞きをする者や間諜がいるのであれば、もはや紙縒の国の情報は筒抜けであると言ってよい。一般市民にも開放されていない場所であるのでなおさらだ。

「それで、アンタは一体何者だ?何て言うか、よく分かんねえがその顔は何なんだ?」

「やっぱり、お前もこれを人の顔だって思うんだな」

 デデノーロの頓馬だけがそう感じるのかと思ったが、やはり違うようだ。ルオムもタジの光球頭を生物の頭部と感じるのであれば、もはや言い逃れはできない。

「タジだ」

「……はァ?」

「信じる信じないはルオムが勝手に決めろ。俺の名前はタジという。ただそれだけだ」

「いやいやいや、信じる信じないじゃあなくって、アンタ、その名前は……勝手に使っていいもんじゃあないだろう」

「むしろ勝手に使えないと困るんだよ」

 タジがタジであることを証明するのは難しいが、異質な者が異質な名前を使えばその人物がより異質であることが際立つ。普通の名前であるのに異質とするのは若干腹立たしいところがあるが。

「てか名前よりもまずその頭だよ。一体何がどうなってそうなってるんだ?魔獣ではなさそうだが、人間のようでもないし……」

 何者であるか、というのは人間か人間でないのかという疑問だったらしい。

「そんな怪しい奴をこんな場所に連れてきて良かったのか?暴れて宿場町が壊滅させられると思わなかったのか?」

「アンタがそれを問う時点でそういう人間でないことは分かる。素性も姿も名乗る名前さえもおかしいが、信用できる」

 そう言って、ルオムはグラスの中の火酒を一気に呷った。

「違うか?」

「……違わないね」

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