盗人の城 12

 四人の王による統一された意思の合議制だった王朝は潰え、今は一人の王が眠りの国をまとめているのだという。

 その名をイェンダ王。

 黄道の騎士団を有し、紙縒の国と称する旧ニエの村と戦争状態になったために、イェンダ王は教会から破門される。それはつまり教会の有していた経済力、影響力、そして白鯨の騎士団を失うことを意味していた。

「そのため白鯨の騎士団は紙縒の国の初期戦力になった、違うか?」

 深夜の城下町は、煌々と灯りが点っている。路地裏の更に奥。月の灯りも町の灯りも届かないようなその場所に、吹けば飛ぶようなあばら屋があった。

 あばら屋の調理台向こうには、長く伸びた髭のせいで人相も不確かな白髪の老人がふるえる手で揚げ物をしている。

 眠りの国は、教会から破門されたために「太陽の出ない間は働いてはならない」という教義にこだわる必要が無くなった。人々は、夜を照らす燭の燃料と売り上げを秤にかけて働くことを覚えた。

「その通りです」

 調理台の向こうで、揚げ物がパチリと爆ぜた。

 デデノーロによる説明とそれまでの会話から、タジは己の身に起こったことの概ねを理解していた。

 もっとも困るのは、タジの容姿が人間のそれとはかなり趣が異なってしまったことだった。

 人間と同じような輪郭、影形をしているにも関わらず、その頭部が人間のものではない。牛頭や馬頭ならばまだしも魔獣と間違えられただろうが、タジの頭についているのは周囲を照らす電球を思わせる光球だ。生物でさえない無機物、あるいは幾何学模様のそれはもはや生命とは別の被り物のようでさえある。

 しかしデデノーロの説明によれば、それは明らかに生物だと認識してしまうようにできているらしい。タジの声は脳内に直接響くように聞こえてくるし、光球の放つ光は顔色のようにその心情を如実に表す。

 やっかいな身体になったものだ、とタジは頭を掻いた。

「白鯨の騎士団以外の騎士団は全て黄道の騎士団に統一され、残り三人の王は一族全て殺されました。それによってイェンダ王は真王を自称し、紙縒の国に与する教会を含めて、裏切りに対する報復を、と命じています」

「イェンダ王は随分と過激なんだな。そんな王についていく騎士団も騎士団だが」

「主君に仕えるのが騎士ですから。その上、教会は国と結託し一度は異端と決定したタジ殿に関して、再び太陽の御使いという地位を与えました。イェンダ王はそれを教会が紙縒の国にすり寄るための意地汚い方便だと罵ったのです。タジ殿に対する態度の転向は教会の求心力を失わせ、結果として眠りの国の結束力を高めることになったのです」

「ああ、すげえ面倒なことに……」

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