盗人の城 13
信仰とは心の働きだ。信じるべきものがその発言を容易に覆すようでは、信頼されるものもされなくなるのは当然である。よって大抵の場合、信仰の根源は決して揺らぐことはないし、根源に最も近い者、あるいはその教会の長たる者の発言は細心の注意を払ってなされる。
公式見解とされたものが揺らぐというのは、それだけ大きな問題なのだ。
「面倒なことっつっても、その諸悪の根源もまた俺かい」
タシは思わず頭を抱えそうになる。全てはタジのいない間に起こったことではあったが、人間同士が争うことになった原因がタジにもあることは明らかだ。それが望むと望まざるとに関わらず、ある意味ではいいように利用されている。
「イェンダ王とかいうのは、相当に狡猾だな」
「眠りの国では乱世を治める天下の名君だと言われていますが」
「当たり前だろう?そう言わなければ人がどんどん逃げていくような現状だ」
「そういうものですか」
「お前、頭が良いのに本当に頓馬なんだな。このクソ大変な時期にあんな閑職についている意味が良く分かったわ。むしろなぜこの国を出ていないんだ……いや、それもデデノーロの頓馬が成せる業か」
目の前の光球頭が言っていることが一字一句余さず悪口だということはデデノーロにも分かったが、しかし今まで様々なことを保留にし、いつかを信じて生きてきた身としては、何も言い返せはしなかった。
「はい、お待ち」
調理台の向こうから、かすれた声とともに皿が置かれた。薄い衣のついた、揚げたての獣肉。
「じいさん、これは何の肉だ?」
タジが問う。
白髪の老人は、長く伸びた眉毛の中の目をわずかに動かした。
「魚型の水棲魔獣の肉さ。雑味が多くて旨くはないが栄養は豊富だ。揚げれば雑味も大して気にならん」
「魔獣の肉?食っていいのか?」
その問いに答えたのはデデノーロだった。
「最近は、討伐された魔獣の肉が流通することが増えましたね。栄養豊富なのもさることながら、最近興った新宗教の一つに、魔獣の肉を取り込むことで人間は強くなる、という教義をもったものが出てきましたから」
「なるほどな」
理に適っている、とは言わないが、魔獣の内包する漆黒の正四面体を身体に取り込むことによって、その人間の魔力が増加することはあるかも知れない。それを知ってか知らずか、新しい宗教の中にはそういう教義を盛り込んだ人間が現れたのだろう。
「どれどれ」
タジにとっては久々の飯だった。雑味の多い魔獣の肉だというからどれだけマズいんだと思ったものの、口にしてみれば獣肉の延長線上の味だ。複雑な風味は臭みとも言えるし香りともとれる。硬くしまった肉質は干し肉のような歯ごたえで、噛むほどにキツめにふった塩が肉の旨味とともにあふれる。
それらを揚げ衣と油が包み込む。
「ふむ、マズくはないな」
「そりゃあどうも」
白髪の老人が無表情に言った。
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