盗人の城 07
「シシーラの村への行き方……ですか?」
「そう。そのくらいなら、お前が教えなくても俺は誰に尋ねることもできるだろう?」
誰でも知っているような情報ならば教えても重罪には問えないだろう、という判断をもって、目の前の何かは見張りに問うているのだ。異様な容姿をしているというのに、人間臭い周到な建前を作ろうとする辺り、人間社会を熟知している。
確かに、村への行き方など、教えたところでどうこう言う訳ではない。見張りはそう判断した。
「ええと、シシーラの村へは……まず眠りの国の正門を抜けて四ツ辻を虹の平原の方へ行きます。チスイの町からさらに道なりに進んで旧ポケノ鉱山まで行ったらそこからポケノ山を大きく迂回するように林川道を通っていくと、シシーラの村に着きます」
「……そうか」
わずかに、驚きと落胆の入り混じった感情が流れ込んでくる。見張りには、それが一体どういう意味なのかは分からない。
悪神が最後に消息を絶ったのがシシーラの村だった、ということは伝説にもある。だとすれば、シシーラの村が存在することに憤りを覚えたのだろうか。しかし人間はそこまで弱くない。
例え村を潰されようと、ふたたび人を集めて国家を作り上げようとする人間さえもいるほどなのだから。
「シシーラの村に通じる道路の敷設は終わったようだな」
「どういうことですか?道路はもともとありましたよ」
「……ああ、そうだな。この国には“歴史”がないんだった。だとすれば、地方史のようなものもまたないと考えて然るべきか」
レキシ、という言葉には何か引っかかるものがあったが、それを見張りが気にしてもどうしようもない。目の前の何かが呟くように、この国には歴史という概念がないのだから。
「それじゃあ、ニエの村へはどうやって行く?」
「……!」
見張りの表情が強張る。
しまった、と思った時には遅かった。光球は瞳のない顔で目敏くその見張りの様子を捉え、そこに何か手がかりを探し出さんと光らせている。
「教えろ」
短く、獣の唸るような低い声。もしタジという悪神だとすれば、彼が本気ならば見張りの命など紙くず同然だ。目の前に数百本の刃を突きつけられて、怖気づくことの何が悪いのか。
震える唇を無理やり抑えつつ、見張りは話し始めた。
「ニエの村は、ありません。ニエの村へは、行けません」
「どういうことだ?」
「ニエの村は、名前を紙縒の国と改めて、現在眠りの国と戦争中なのです」
光球に隠れた何かの内なる瞳が大きく見開かれたように感じられた。
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