盗人の城 08
「コヨリの国?どういうことだ……?」
それきり光球頭は黙り込んでしまった。意識が自分から反れたのを理解し、見張りは目の前の何かが紙縒の国についてなぜ驚いているかを考えた。
ニエの村が紙縒の国と名前を変えて眠りの国に反旗を翻したのは、つい最近の事だ。その事情は分からないが、老齢の騎士団員曰くきっかけは紅き竜エダードの出現だという。
エダードの来襲と示し合わせたかのようにニエの村が独立を宣言した。名のある村長によって復興がなされ、経済的に豊かになったニエの村は、人材の供給もあってみるみるうちに大きな町へと変わっていった。
それと同時に、タジが初めて現れた生誕の地という観光地ができ、またその近くにある泉は聖なる泉として見られるようになったのだという。分かりやすく人、物、金が集まった上に、タジという権威までついてきた。
しかしタジという権威は、眠りの国から異端を申し渡されることによってにわかに旗色が悪くなる。それまで観光資源だったタジという言葉が、不名誉なものとして扱われるようになってしまったがために、人が集まりにくくなってしまったのだ。
そこで、ニエの村は眠りの国から独立することを決める。
タジは太陽の御使いであるという従来の考えを支持し、タジを異端とする眠りの国こそ魔獣に魅入られた裏切りの国家であると触れ回った。
紅き竜エダードの来襲は、そういう不安定な時期だったのだ。
エダードは真紅の巨体をもって眠りの国に降り立ち、悠然と眠りの国の城へと入った。その姿は多くの人間を震えあがらせ、国王たちの判断を固唾を飲んで見守った。
数日の後、エダードは悠然と城を去る。
その後間もなくして四人の王は仲違いを始め、内戦が始まった。
ニエの町は、グレンダ王麾下の騎士団によって一度は鎮圧されたものの、王に対する落胆とタジ再来に対する期待があってか、人口の流出は防げなかった。鎮圧された町はすぐさま活気を取り戻し、再び眠りの国に牙を剥く。
眠りの国は脆弱になった。
四人の王による合議と、それによって決まったように見せかけていた統一された意思はどこかへと消え去り、後に残ったのは紛糾する議論と決まらぬ物事。エダードが何かしたのかと国民は疑ったが、しかしそれも詮無いことだった。王たちの意見は四分五裂し、国としてのまとまりがなくなってしまったのだ。
だからと言って、エダードが何をしたのかなど、その時の人間たちに知る由もない。
「……自分で確かめる必要があるんだろうな」
光球は一人頷くと、棒立ちの見張りに顔を向けた。
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