光の届かない場所 23

 例えばそんなことがあり得ないとして、ある空間に存在する物が時を止められて、そこに力をかけ続けるとどうなるか。

 力は一方向にかけられており、動かないものが動かないまま永久に力だけが加えられていく。時を止められ、力の流れを止められたその空間がどうなるか、想像したことがあるだろうか。

 答えは……。

「確かに、俺は俺の能力を見誤っていたよ」

 タジが拍手を一つうつと、周囲の時間を止められていた空間が爆発するように一定の向きで動き始めた。

 その勢いはとてつもなく、またミレアタンの力の流れを押し固めた身体に吸収されるほどお淑やかでもなかった。

(うわあああっっ!?)

 海流、その力の流れそのものだったミレアタンは、タジが作りだした超強力な力の流れに抵抗できなかった。

 力の流れを止めた空間に、自身が傷ついてでも力を加えていたのは、加えれば加えるほど、その力が空間に溜まっていくだろうと推測し、それが攻撃になることをタジ自身が予感していたからだ。

 結果、空間内に溜められた力は超能力の解除と共に爆発し、しかも一定の方向へと光を超える速さで急進し、ミレアタンの身体をズタズタに引き裂いた。

 力の流れであるミレアタンの身体が引き裂かれるということは、流れそのものが小さくなることと同義だ。

 身を縮めて錐のように一点に集中した力だったミレアタンの身体は、今やどれだけ縮めても強力な力を出せないほど。

「小さくなるには限度があるようだな。……内包する漆黒の正四面体の大きさに比例するか?」

 漆黒の正四面体が意思の形を決めるのだとすれば、大きさもまたそれによって決まるのだろう。海中に棲む魔獣の意思を取り込んだのも仇となった。その身を縮めて力の流れを強めることができなくなった今、ミレアタンがタジに物理的に対抗できる力は残っていない。

(デタラメな強さだよ)

 雨が降ってきた。

 正確には、タジの攻撃によって巻き上がった海水が、滝となって降り注ぐその前触れであった。

 タジとミレアタンは海底だった場所に立っている。タジによって弾かれた海水が、再び滝となって海に戻ってくるこの一瞬。

 しかし、決着をつけるには十分な一瞬だ。

 ミレアタンは、真っ黒なワニのような姿形をしている。その全身が漆黒の正四面体なのか、それとも……と思考するよりも早く、タジはそのワニに向かって拳を振り上げた。

(やっ、やめ)

 逃げる暇もなく、ミレアタンの身体が弾ける。

 バシャリと最後の力の流れが消えて、後には大きな漆黒の正四面体が残った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る