光の届かない場所 22
あらゆる海に生きる魔獣の、あるいは水の中に生きる者の意思を奪い去り、その身に宿った漆黒の正四面体を自分の身に移す。その身体に宿す漆黒の正四面体の量が多いほどその力が強くなるというのなら、ミレアタンはそうして強大な力を得たのだと想像がつく。
「傲慢そのものだ」
やたらに振り回すせいで、タジの周りには力の流れを止めた空間があふれている。タジ自身もその止めた空間によって身動きがとりづらくなってしまい、ますますミレアタンの神速についていけなくなっていた。
(キミ自身も傲慢になってはいないかい?超能力を手に入れたはいいけれど、その能力にキミ自身がついていけてないじゃあないか)
「くっ……」
見透かしたように、タジが力の流れを止めた空間を避けながらミレアタンは挑発するように泳ぎ続けた。近づこうにもタジが止めた空間は何か目印がついているわけでもない。止めた部分を全て記憶していようが、一瞬の反応が求められる場面において「行けると思った場所に行けない」という緊張は、命とりだ。その反応の遅れは、ミレアタンとタジの速さの違いと相まって、ミレアタンに有利に働いていた。
「面倒くせえ!」
無理に動こうとしても、自身の能力によって傷つくだけだった。永遠に力の流れがとまった空間は、いかにタジでもどうすることもできず、抗おうにもタジの体に突き刺さる。
タジは、この世界に生まれて初めて怪我を負った。
流血することなど、あってはならないことだ。ほとんど熱線と化した炎にも耐えたタジの体は、いまや自身の能力によって血だらけになっている。
(おいおい、本当に自分の能力に殺されてしまうよ)
「うるせえって言ってんだろ!」
頭に血の上ったタジをさらに挑発するようなミレアタンの言葉。
ミレアタンは勝利を確信した。
誰にもタジを傷つけることはできないと思われていた。それはミレアタン自身もそうで、彼がいかに工夫をこらそうとも、タジの身体には傷一つつけられない。だからこそミレアタンはタジの精神に作用し、タジには不可能だったはずの時間による閉じ込めを用いた。
しかし、タジは今、タジ自身の超能力――それはミレアタンがタジを時間の牢獄に閉じ込めたがゆえに発言した、力の流れ……つまり時間の流れそのものを止める超能力によって傷ついている。
肉体的に無敵だと思われていたタジは、満身創痍となって、おまけに逆上し、ミレアタンに一撃を加えんとしている。
この特異点を何とかするには、千載一遇の機会。
ミレアタンが思ったのも、無理はない。
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