光の届かない場所 21
ミレアタンがその身に宿す
タジが動きを止めた海に堰き止められた海流は、もはや荒れ狂うという言葉さえ形容するには足りない状態になっていた。ミレアタンの有する力の流れは確かに小さくなっている。しかしそれとは別にミレアタンの身体は削り取られた以上に小さくなっていた。タジの超能力から逃げるために身を縮めた結果、茫洋と広がっていた力は集中され、キリキリと研ぎ澄まされた流れが海流の勢いを強めている。
その姿は黒い光沢を帯びて、凪いだ海を一筋の黒い流星が流れているようにさえ見えた。
尾を引くミレアタンの身体を捉えるには、点でなく線でとらえる必要がある。しかし、複雑な幾何学模様を描くようにその身をよじらせるミレアタンの動きに、タジはついていくことも、視線で追うこともできなかった。
「猪口才な!」
(キミから逃げることはいくらでもできる。でも、ボクは君をここに留めておく必要がある。さあ、キミが納得するまで鬼ごっこを続けようじゃないか)
タジにとって、ミレアタンに追いつけないことに驚かざるを得なかった。できると信じることを全て可能にするタジにとって、ミレアタンの速度に追いつくことなど、信じるに造作もない。
「俺はお前に追いつくぞ」
口で言っても同様だった。いくら駆けようと、タジはミレアタンの軌道を捉えることができない。それどころか、身体をさらに小さくさせた彼をいよいよ見失いそうにさえなった。
(いくら強がりを言っても無駄だよ。キミはもう、ボクに追いつくことはできない)
ミレアタンも、タジと同種の力を持っているのだろうか。
できると信じたことができる力。
タジの中に、一瞬、疑問が湧く。しかし、エダードがタジを特異点と呼んだ以上、同種の力を持っているとは考えづらい。タジが漆黒の正四面体の力と自身の間に混線を起こしたことを考えればなおさらだ。
だとすれば、もっと別の何か……ミレアタンの内包する力が何らかの影響で強まったと考えた方が……。
「まさか!」
タジが海中の気配を探る。
凪の海はミレアタンの荒れ狂う姿しか感じ取れない。その存在感があまりに大きすぎたために、他の生命の気配が感じられないのだとタジは思っていたのだが、そうでは無かった。
(ボクがいれば、また海は蘇る)
「そういうところが信用ならないって言ってるんだよ!」
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