光の届かない場所 14

 流動そのもののミレアタンの体の中に漆黒の正四面体が溶け込んでいるとして、それをどうしたら実体化させることができるのか。

「当てはある」

「まさか」

 冗談だろう?とムヌーグは目を見開いた。この世界の人間が空に浮かぶ雲をどのように捉えているかは分からないが、タジの言っていることはつまるところ空中で雲を固めて触ろうとしているようなものだ。

 そんなもの、未来の超技術か、人知を超えた魔法でしか叶わない。

 そしてタジには、その両方がない。

「魔法も超技術も、俺は持っていない。しかし、この身に宿る力は、この世界の基礎を形作る漆黒の正四面体の力とは別種の力だ」

 タジは二人の前で拳を開閉させてみせた。

「俺が漆黒の正四面体の力によって力を封じられたのは、きっと俺の力と漆黒の正四面体の力とが混線していたからなんじゃないか、と俺は思うようになってきた」

 トライアングルの強大な力場にタジの持つ力が封じられ、それによって体が動かなくなった。洗い流すことによって力場は剥がれ、タジは再び自由に動くことができるようになった。

「だとしたら、タジ様の力は強大な魔獣の力には対抗できないということでは……?」

 ムヌーグの疑問はもっともだったが、タジには別の期待があった。

「逆に考えることもできる。俺はその時、俺自身の力の根源を知らなかった。しかし今は自分の力の根源を理解し始めている。それが、ミレアタンと対峙するときに、強大な力場に立ち向かう時に有利に運ぶのではないか、ってな」

 それに、と付け加えてタジは続ける。

「漆黒の正四面体に全く太刀打ちできなかったならば、俺は魔獣を倒すのにもっとずっと苦労していただろうしな」

 相手の、魔獣側の力の根源を見ているからこそ、タジには戦えるという予感があった。

「そうですか。そこまで言うのでしたら、これ以上引き止めるのは野暮というものでしょう。第一、私にはタジ様をお止めする権利がありません」

「結局、タジさんは海竜ミレアタンに対して、何をなさるつもりなんですか?」

 イロンディが端的に問うた。

「簡単に言えば、ヤツをヤツたらしめている魂の源を奪う」

 漆黒の正四面体について詳しく説明するにはそろそろ時間も惜しかった。

「そんなことが可能なのですか?」

「持っている、のならば奪える。何があろうと、できる」

 タジは断言した。

「確かに、タジ様がそのように宣言をして、成しえなかったことはありませんね」

「だろう?俺は、できる、と信じることは絶対にできるんだ」

「不思議な話ですね」

 イロンディがその言葉に感心している前で、タジはそっと肩をすくめてみせた。

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