凪いだ海、忘却の港町 62
「知性ある全ての生物の中心?それは、ミレアタンがエネルギーに宿った意思であるように、概念に宿った意思か何かなのか?」
それこそ存在が怪しいものだ。
知性ある生物は、自分ではどうにもならない出来事を、神や神に準ずる上位存在を信じることによって、様々なことを解決する手段とする。
他者、自然、病、死。
戴く冠のさらに上、そこに自分以上の存在を認め、その存在によって社会の統治を任されているとみなす政治形態を神権政治という。あるいは他者の存在を拡張し、自然の全ての物の内には魂が宿っているとする宗教観をアニミズムという。
知性ある全ての生物の中心というのは、そう言った神の在り方を思わせる言葉だ。
眠りの国が太陽を神と戴くからには、彼らの神は太陽である。あるいは太陽を象徴とする偶像か擬人化が行われているはずだ。
「あるいは、ディダバオーハは太陽そのものだとでも?」
(太陽?……そうか、人間は太陽を彼らの神だと思っているんだね)
「俺はつい最近まで太陽の御使いだとか言われていたよ」
初めて言われたときには気恥ずかしかったものの、それなりにこの世界で言われ続けると慣れも生じる。もっとも、今となっては太陽の御使いなどではなく、国を追われる尋ね者になってしまったが。
(彼は、ボクのようなエネルギーでもなければ、太陽のような手の届かない存在でもありませんよ)
「もっと俗な存在だと?」
紅き竜エダードは、人間に神と恐れられる程度には世界の形を変える力を持っている。しかしその力をもってしても人間の住む地形を変える程度で、自然に生じる災害に近い。
ミレアタンは力の流れに意思が宿ったもので、理解の範疇外にあるという意味ではもっとも神という言葉が似合う。今は海竜(まさしく海で作られた海そのものの竜だ)の姿形を取っているとはいえ、それも形を保っているだけだ。
ミレアタンの言い方だと、ディダバオーハには形があるのだろう。手が届くほど近くにあり、エネルギーのように一所に留まらないものでもない……。
(タジも見たことがあるはずです)
「見たことがある?俺が?」
そんなに身近なものだとでも言うのか。タジは驚くと同時に、雷に打たれたようにある物に気づいた。
それは、魔獣の体内から時々現れるものだった。
しかしタジは全く意識していなかった。タジは目の前で普通の人間が、この世界の人間が死ぬところを一度も見たことがなかったのだから。
「まさか、人間の体内にも……?」
(その通り)
ディダバオーハの正体。
それは、あの闇よりもなお漆黒の色をした正四面体だ。
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