凪いだ海、忘却の港町 61
「ミレアタンがいたことでシシーラの村が滅んだ、という訳ではないんだな?」
(ボクはただのエネルギーですから)
魔獣に肩入れをするわけでもなく、そもそもそう言った生物同士のいざこざに関わる様子でもないようだ。
(ボクがいることによって周囲が凪の状態になるのは仕方ないことなんだ)
水の流れそのものであるミレアタンは、存在するために周囲の水の流れを巻きこんで己の肉体とする。水の流れという力そのものを奪い取ってしまうために、彼の周囲に起こるあらゆる水の動きは留まってしまうのだと言った。
「はた迷惑だな」
迷惑ではあったが、逆に言えば海が不自然な凪の状態であるとき、そこにはミレアタンが存在しているということでもある。
あるいは、滞在と言ってもいいだろう。
「なぜこの辺りを棲み処とする?」
(たまたまですよ)
タジの座るミレアタンの身体、その薄皮を一枚隔てた向こう側を流れる水の流れが、わずかに速くなったようだった。
タジは、人間で言えばミレアタンの大きな血管の上に座っているようなものだ。脈拍や血流によって動揺を見抜くように、タジは彼のわずかな心の揺らめきを感じ取った。
「本当のことを言っていないな」
(ボクの言葉を、偽りと言うのですか?)
悲しそうな声色が脳に響いてくる。目の前の顔模様も、光の加減でどこか寂しそうだ。
「ディダバオーハ」
尻に感じるミレアタンの水流が大きくなった。波に揺られるように体がわずかに上下して、タジは確信する。
「魔獣の神と繋がってるんじゃねえか。何か約束事でもしたのか?」
(それは……)
「もし、アンタが魔獣の神と繋がっているとして、それがアンタのここにいる理由だとしたら、ぜひともその魔獣の神の居場所へと案内してほしいものだ」
(なるほど……あなたが彼のいう特異点なのですね)
「特異点?」
(ボクがここにいる理由の一つは、タジを見つけ、そして見張るためだよ)
「なぜそんなことを?……って、まあ仕方ないか。実際それだけのことを魔獣に対して行っている訳だし」
しかし、それを世界の理そのものに監視させるのは事態の大きさが違いすぎる。魔獣の神がどういう存在だとして、ミレアタンも相当に超常の者だ。タジをして倒す倒さないの問題ではない存在と比肩しうることを考えると、ディダバオーハに会おうなどとは気軽に行えることでもないようだ。
(彼は……魔獣の神でもありますが、人間の神でもあります)
「……は?」
(ディダバオーハは、知性ある生物全ての中心なのです)
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