荒野に虹を 72
「いくつか、説明しなければならないことがある」
体を横たえるゴードの隣に座り直し、タジが言った。
モルゲッコーの襲撃から四日が経ったこと。襲撃に関しては既に書簡が眠りの国へ届けられており、今は沙汰を待っている状態だ。立て続けに起きた赤獅子の騎士団の不祥事は、その他の騎士団による糾弾の材料となるかも知れない。
モルゲッコーとオルーロフが不在の今、チスイの荒野をまとめる騎士はいなかった。傭兵やごろつきの方はかろうじて彼らの中心人物であるビジテが抑えている状態だったが、日一日と過ぎていくにつれて、その数は如実に減っていった。度重なる不祥事を、不幸なことと捉え、そんな場所に長くいれば不幸がうつってしまうと考えるのが荒くれ者の思考だ、とビジテは言った。
モルゲッコーは造反という名目で投獄されたが、間もなく死亡した。
死体は焼け焦げていた。他殺だということは明らかだったが、犯人探しも、またその方法に関しても、捜索されることはなかった。勇み立って犯人探しをしようにも、今回の件でモルゲッコーに対する不信と恨みをもった人間は数えきれず、また犯人探しに人員を割り振れるほど、暇も余裕もなかった。
一応、騎士の中でも最も年長者が荒野全体をとりまとめる役を承ったが、半数以上がタジによって怪我を負った状態である。治安維持のために動ける者はおらず、文句と悪態、タジに対する後ろめたさなど、おおよそあらゆる負の感情の中で、統制は水で濡らした紙の上を破かずに歩くほどに難しかった。
「ラウジャ殿はどうしたのです」
「ラウジャはポケノの町に置いてきている。もちろん、ラウジャの方には連絡済みだ。何か考えがあるとか言って、ポケノの町で交渉をしたいと言ったので任せることにした」
「それはまたずいぶんと悠長な……。ラウジャ殿がモルゲッコー側だとはまだ完全には判別できていないというのに」
「それこそ杞憂だ。俺が襲われ、お前とイヨトンが襲われた時点で動かなかったのを考えてみろ。そもそも何らかの理由をつけて俺をポケノの町から出ないようにさせるだろう。ろくに引き止めもせず俺をチスイの荒野に戻らせた。判断はそれだけでいい。それに……」
「それに?」
「俺はオルーロフをこの手にかけた。もし、ラウジャが何かしらの工作をして俺たちの行く道の邪魔をするのなら、俺はラウジャを倒すだろう」
ゴードは言葉を失った。
「あの時、俺は魔獣の襲撃に遭った。魔獣自体は大したことのない群れだったが、それを人間が引き連れていた。引き連れていた人間は、黒い液体……祝福とか言っていた奴を飲んで、魔獣化したよ。それが、オルーロフだった」
「そんなことが……」
「……まあ、過ぎ去ったことだ。オルーロフは結局何も言わなかったし、これ以上いざこざがなければ、もうすぐ終わる」
「終わる、ということは、散水塔が見つかったのですか!?」
傷口の痛むのも気にせず声の大きくなったゴードに、タジは大きく頷いた。
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