荒野に虹を 16
「ハッハッハ、今は金ももらっているからイヨトンに頭を下げる必要もない!」
「なっ、誰にもらったのですか?まさかゴードから……!」
「いや、普通にチスイの荒野での活躍に対する報奨金ってことでもらったんだよ。騎士や傭兵の基準で計算したら荒野にある資金を全部集めても足りない、っていうから、とりあえず傭兵が一か月生きていける分をよこせ、って言ってもらってきた。モルゲッコーも安い手切れ金だと喜んでるんじゃないか?」
タジが懐から革袋を取り出すと、確かにその中には鋳造金貨が三枚入っていた。
「いや、タジ様。太陽金貨でもらったんですか?」
「万札みたいなもんだろ」
イヨトンは大きくため息をついて、それから太陽金貨について説明した。説明と言うよりも説教と言った方が近かった。
太陽金貨は、眠りの国の最高額貨幣だ。表面に太陽と眠りの国の紋章が入った硬貨で、一枚あれば一週間は遊んで暮らせるくらいの価値がある。
「じゃあ一か月には足りないじゃないか」
「そういうことではありません!」
一枚で一週間遊んで暮らせるほどの価値がある金貨は、一般的な市場では用いられない。商人同士の物資の輸出入、あるいは国家における物流の場で用いられるような、浮世離れした貨幣である。
「簡単に言えば、普通に使おうとしても使えません。両替が必要です」
「なんてこった……」
「なんてこった、じゃありませんよ!なんで俗世にそんなポンコツなんですか!」
「ぞっ、俗世にポンコツ……」
「一応言っておきますけど、両替商も太陽金貨を扱ってくれる人はごくわずかですし、例え両替してくれたとしても、めいっぱい足元みられますからね」
「うわあ、結構衝撃的な事実だ……」
「あの」
イヨトンの説教にタジが意気消沈していると、御者台から声がかかった。
「よろしければ、我々の商会で両替をいたしましょうか?」
「良いのか?」
タジが幌の向こうにいる御者に問う。
「もちろんでございます。太陽の御使いであるタジ殿に金銭面で不便をさせたとあっては商会の恥。ゴード殿の手腕はうかがっておりますが、我々の商会もそれに負けず劣らずタジ殿にお仕えいたしましょう」
「それはありがたい」
御者はゴードとは別の商会の者らしい。
「商会の名前は?」
「ギュンカスター商会です。ご用命の際にはぜひ我々を」
「なるほど、覚書きをしておこう」
タジは金貨の入った革袋を懐にしまい、代わりに羊皮紙を取り出した。備え付けのインク壺と羽ペンで羊皮紙に書き入れる。
――おもったとおり、きいていただろ?
「タジ様、綴りが間違っていますよ」
タジがイヨトンに羽ペンを渡す。
――監視されていますね。先ほどの話も報告するでしょう。
「文字を書くのは苦手だ。練習が必要だな」
――ギュンカスターしょうかいは、モルゲッコーがわだな。
――そうですね。眠りの国に着いたら、手筈通りに。
いよいよそれらしくなってきた、と心のどこかでウキウキし始めるタジであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます