【番外編】川のぬしづかみ 21
タジとイヨトンが眠りの国の都へ向かってしばらくして、ニエの村に一人の魔獣研究者が助手等を引き連れてやってきた。
川に現れる正体不明の魔獣の解明と、今後行うべき処置、対策等を検討し実行に移すための研究は、大変だろうと思われていた事前の準備がすでにあらかたなされた後であり、両生類型の魔獣による水棲魔獣の精製、繁殖ともに根拠のある様々なデータとともにまとめられていた。
「ずいぶんと魔獣に詳しい方がいたのですね」
研究者がアエリ村長に言うと、アエリは笑っているのか困っているのか判別のつきにくい顔をしていた。
「それちゃんね、村の子どもちゃんが色々と調べた結果ちゃんなの」
「ほお!それはずいぶんと利発な子どもがいるようで」
報告書自体は、調査という名の遊びを監視していた一人の騎士によって書かれたものであったが、その内容に関しては全て村の子ども……クレイの調査が元になっている。
捕まえた川のぬしは、川の上流、村はずれの場所に繋がれており、そこには常に一人の騎士が、川の上流から流れてくるアオスジの魔獣化したものを村のある下流へと流れないように、そしてぬしが再び力を取り戻して暴れたりしないように監視していた。
騎士がいるのを良いことに、そこは子どもたちにとって新たな遊び場となった。その場に限っては騎士が監視しているから安全だという子どもたちの主張を、ムヌーグは騎士団の見栄のために、アエリは騎士団の顔を立てるために了承しなければならず、そうして川の一部分は再び子どもたちの社交場になった。
「タジちゃんの入れ知恵ちゃんね」
「最後まであの人は子どものような悪戯を残していくのですから……」
完敗だ、とばかりに二人は苦笑いをせずにはいられなかった。
最初は興味と怖いもの見たさが綯い交ぜになったようにぬしの様子を伺っていた子どもたちだったが、満身創痍で微動だにしない魔獣を見続けるというのは飽くのも早く、三日もすると川のぬしは見向きもされなくなった。
クレイを除けば、の話だが。
クレイは何かに取り憑かれたかのように、ひたすらに川のぬしとのにらめっこを続けた。それだけではない。川に残された、魔獣化したアオスジや、川のぬしの生態、そういったものをつぶさに観察し、それらを羊皮紙にびっしり書き込んでいたのである。真っ黒く書き込まれた羊皮紙をたまたま発見した見張りの騎士の一人はぎょっとした。それから、クレイの調査によって得たものが必ず研究者の役に立つと確信して、クレイの書いたもの、これから書こうとしているもの、観察したいものなどを具体的に実現していった。
「素晴らしい行動力と観察力です。私の助手たちの誰よりも立派に研究者をしている」
「クレイちゃんは、一度決めたことに一直線な子なのちゃんよね」
良くも悪くも、という言葉は喉の奥に留める。
「出来ることなら私の下で助手として働かせたいほどですよ。いやはや、本当にこの才能は埋もれさせておくにはもったいない……」
アエリの想定していた通りの言葉だった。
「私は……いや、それは私じゃなくて本人に聞くのが一番ちゃんね」
そうしてクレイは村長宅に呼ばれることになった。
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