第9話 第九幕

 ラパンは二階の窓から、ベルノとミラが帰っていく姿を見下ろしていた。傾きはじめた陽の光が、二人の影を幾分細く、そして長くみせる。


「ラパン様。山猫男ですが、第七班が口を割らせる前に始末をしてしまったようです」


 そこへ慌てて部屋へと入ってきたロラ=アクシオが、青い顔をしながら報告をした。


「まぁ、実行部隊が詳細を知っているなんてことはないでしょう。無用な殺生は好みではありませんが、構いませんよ」


 視線を窓の外へ向けたまま、ラパンは淡々と答えた。


「あの賞金稼ぎはどうなさいますか? 我々に気が付いているとも思えませんが、男が持つあの刀は凡夫が扱えるような代物ではありません。相当な曰く付きの業物かと。それに、町外れの廃屋で斬り合いがあったとの報告が治安省から入っていますが、届出のあった死体には鋭利な刃物で斬られた傷があったとか……。後顧の憂いは絶っておくべきかと」


「……あれね、ジアーロでは少しは名の知られた男ですよ。いったい、こんなところで何をしているんでしょうね。まぁ、放っておきなさい。いま我々が直接動いて目立つことは避けねばなりません。そのために今回は賞金を掛けたりなど、回りくどいことをしたのですから。努力を無に帰すのはいただけません。実害がなければそのままが良いでしょう。彼らにしても、その辺りはきちんとわきまえているようですし。それに、なんといっても無用な殺生は避けたいものです」


 ラパンは歩いていく二人の後ろ姿を眺めながら、ニヤリと口の端を上げた。


「でもまぁ、監視ぐらいは付けておきましょうかね」


「はっ。早速手配をいたします」

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