第7話 第七幕

「ミラ、それで全部なのか?」


「えぇ。男が自白した分は全て回収しましたので」


 テーブルの上に所狭しと並べられた宝石は、色とりどりの輝きを撒き散らし、まるで目が眩むようだった。


「しかし、これは壮観というやつだな。城の宝物庫でもなければ、こんなにたくさんの宝石にはお目にかかれまい」


 溢れんばかりの宝石の山に、ベルノは思わず感嘆の声を洩らした。


「……それがベルノ様。この中に、城の宝物庫でもお目にかかれない様な物がありましたよ」


 言って、ミラが一つの宝石を慎重に手に取った。


「いったい何なのだ?」


 ベルノが訝しげな視線をミラへと向ける。しかし、その問いに答えることなく、無言のままミラは手に取った蒼い大粒の宝石を、窓から差し込む陽の光へと翳した。


 すると、床一面に広がった宝石の光の中に、模様が浮かび上がった。


「これは……地図か!?」


「そのようです。そこをご覧ください」


 そう言ってミラが指差した場所には、紋章が浮かんでいた。


「これはムルシエラゴ帝国の紋章ではないか!?」


「えぇ。亡国ムルシエラゴ。共和国連邦樹立の陰で滅ぼされた悲運の帝国」


 ミラが冷たい眼を細めながら、そう呟いた。


「こんな物がいったいなぜ……」


「きっと賊の狙いはこれだったのでしょう。これが何を意味する物なのかわかりませんが、どうやら穏やかではない事が進行中のようですね」


 そう言いながら、ミラが宝石を真上から覗き込む。蒼い宝石はどこまでも透きとおっており、中には何の模様も刻まれてはいなかった。


「……しかし、それはワシらとは関わりのないことだ。賞金稼ぎとしても、また、ジアーロ臣民としても……」


 確かに、これは連邦体制に不穏な影を落とす物であるかもしれない。しかし、これ以上、他の問題に首を突っ込むわけにはいかない。国許からの刺客を退け、カレン嬢を探し出した先に自分たちの目的はあるのだ。ベルノはミラを見据えながら、自分にもそう言い聞かせた。


「……えぇ。わかっています」


 ミラはそっと視線を逸らすと、宝石を一つずつ、ゆっくりと仕舞いはじめる。


 ――図らずしも厄介ごとと関わってしまった。ウェストリバーリージョンの連中はいったいどう出てくるのか。


 しなやかに動くミラの指先を見つめながら、ベルノは自分たちの先行きを想い、唇を引き結んだ。

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