妖魔のバレンタイン

『妖魔と慰魔師のバレンタイン 前編』

「あ、あの……、よ、よかったら食べて」

「ありがとうございます」


 今日は2月14日。

 まだまだ寒さは引かず、朝布団から出るのが億劫になる季節。

 そんな寒い日の朝礼前。


「はいこれ、バレンタインのチョコ」

「マジで?! いいの、貰っても?」

「義理だけどね。席が隣のよしみってことで……。あ、ホワイトデーは三倍返しでよろしく」

「お、おう……」


 クラスではチョコレートを配ったり、貰ったりしていた。

 今まで山奥で過ごしていたからわからなかったが、バレンタインデーの学校とはこんな感じなのか。

 色めきあうクラスメートの様子を見ながら、僕は感心する。

 例によってくうだけはいつも通り自分の席に座って本を読んでいるが、クラスはいつもの数倍騒がしい様相を示していた。

 そしてそれは僕の周辺も例外ではなく――。


「って言うか、なんでキョウがこんなモテるの?! おかしくない? 絶対私の方が可愛いでしょ?!」

「は、はぁ……」


 真さんは僕の机の上を見ながら、憤慨する。

 現在、僕の机には山の様に積まれた大量のチョコレートが有った。

 登校途中にも貰った分で嵩増ししてはいるが、そもそも教室に入った時点で山ができていたのだ。

 更に言うとこのチョコレートは机の中にまでぎっしりと詰まっている。

 そのあまりの密集具合に、初めは新手のイジメかと思った程だ。

 一体誰がいつの間にこんなに中に詰め込んだのだろうか。

 そして元々中にあった、僕の置き勉の教材はどこへ消えたのだろうか。

 テンションの高い真さんとは裏腹に、僕はちょっぴり憂鬱だった。

 そんなこんなで真さんと騒いでいると、ウェーブ気味の栗色の髪の女子生徒が大きな胸を揺らしながら僕達の側まで歩いてくる。

 ミノタウロスの妖魔であるカルビさんだ。


「キョウちゃん、バレンタインおめでと~。はい」

「おめでとう? あ、ありがとうございます」


 妙なテンションで白い包みを渡してきたカルビさんに、僕は困惑しながらもお礼を言う。

 と言うかおめでとうってなんだろう、どう言う意味だろうか。

 僕はカルビさんの言動にクエスチョンマークを浮かべながらも、純白の箱に入ったチョコレートを受け取った。


「中身は、カル特製のホワイトチョコレートだよぉ。搾りたての新鮮なミルク使ったらすっごい美味しいんだよ」

「「「――――っ?!」」」


 カルビさんがそういった瞬間、付近の男子生徒が銃声でも聞いたかの様な速さで、一斉に此方に視線を送ってくる。

 それも皆が皆、主にカルビさんの大きな胸の辺りを凝視する様にだ。


「??」


 僕は皆の反応とチョコレートの話が繋がらずに首を傾ける。

 隣で真さんが汚物を見るような眼をしている事から、恐らくあまり楽しい話ではない事だけは分かった。


「お返しはキョウちゃん特製の白いのでいいからぁ。ま~たねぇ~」

「お返し? 白?」


 来た時と同じく大きな胸を揺らしながら、カルビさんは上機嫌に去っていく。

 僕はそんな背中を見ながら、先程の言葉の意味を考えていた。

 チョコレートを貰ったのだから、何かお返ししなければいけないのは分かる。

 でも白いのってなんだろうか。

 カルビさんと同じくホワイトチョコを作れと言う事だろうか。

 自慢じゃないが、僕の料理スキルは切ると焼くしか出来ない。

 そんな事を考えていると、横から怒りの篭った負のオーラが広がっている事に気づく。


「…………随分と、御モテになられるようですね、キョウさん」

「えっと、クリスティナさん?」


 恐る恐る声のする方に視線を向けると、クリスティナさんが笑顔で睨んでいた。

 その鬼気迫る表情に僕は思わずたじろぐ。

 何か怒らせる様な事をしてしまったのだろうか。


「確かに送られたチョコレートを断るなど、無碍に扱えないのは分かります。しかしその数に浮かれるなど言語道断であり、そもそもバレンタインデーとは恋人やお世話になった人に感謝の気持ちを伝える日であり……」

「クリスさん、日頃の感謝とを込めた私の本命チョコ、受け取ってくださいっ」


 長々と喋ろうとしていたクリスティナさんの言葉をぶった切って、真さんは可愛らしく包装されたチョコレートを両手で差し出す。

 そのあまりの突然さにクリスティナさんは言葉を止め、口を半開きにしたまま固まった。

 まあ、それもそうだろう。

 真さんは見かけはどこからどう見ても女子だが、実際の性別は男なのだから。


 ――いや、男だからおかしくはないのかな?


 僕は目の前の光景の理解のしにくさに、頭が混乱し始める。


「……え? いやその……」


 対するクリスティナさんは固まった姿勢のまま、露骨に拒絶反応を見せていた。

 先程クリスティナさんが語った言葉が台無しである。

 でもそれも仕方ないのかもしれない。

 何せクリスティナさんは男嫌いのユニコーンなのだから。


「あの結構自信作なので、味は大丈夫だと思います。あ、それともクリスさんチョコダメでしたか?」

「ダメといいますか……その、チョコも気持ちも結構なので。形だけで……」

「気持ちも全否定っ?!」


 完全敗北した真さんはぐったりと項垂れる。

 それこそ今にも灰になって飛んでいきそうなレベルで。

 可哀想だが、僕には掛ける言葉が見つからなかった。


「はぁあああ~~~~~、予めある程度予想付いたけどやっぱり凹む。これも全部キョウが……」

「?」


 うつ伏せていた顔を上げて僕をキッと睨みつけると、真さんは何かを投げつけてきた。

 僕はそれを普通にキャッチする。

 なんだろうと見てみると――。


『義理』


 と包装紙に大きく書かれたチョコレートだった。

 どう言う意味だろうか。

 疑問に思って真さんの方を見ると、指で顔を隠しながらも隙間からこっちを眺めていた。


「チョコ? これを僕に?」

「か、勘違いしないでよねっ?! た、偶々材料が余っただけなんだから」

「は、はぁ……」


 顔を真赤にし、指の間からこっちを睨みながら叫ぶ真さん。

 何をそんなに恥ずかしがっているのだろうか。

 いや確かに同じことをやれと言われたら小恥ずかしい事この上ないだろうが、チョコレートを友達に渡すくらいでそこまで恥ずかしがる様な事だろうか。


「っ!! ……今チョコを渡しても笑顔で受け取ってくれそうな心の声を受信した」

「ほ、ほんと? わ、私ちょっと行ってくるっ」

「「私達も渡す~」」

「……識はどうする?」

「面倒くさいからパス」

「識はキョウ君と色々あったでしょ。いいから私達と一緒に来るの!!」


 僕と真さんが少し恥ずかしげなやり取りをしていると、紫雲さん達が識さんを引き摺りながらやってきた。

 顔立ちとかスタイルはかなりいいはずなのに、無気力に引き摺られている識さんを見ると、寝ぐせの酷い髪の毛の事もあって、どう見てもナマケモノにしか見えない。

 しかし普段はこんな様相ではあるが、生徒会長である美鈴さんを苦戦させる実力者なのだ。

 そんな風に識さんの事を見つめていると、識さんは溜息を付きながら立ち上がった。


「ほら、渡すんだろ? さっさと渡して席に帰るぞ。――――ホント面倒くさい、なんで私がこんな面倒くさいイベントに……」


 ぶつぶつと何かを呟く識さんを他所に、紫雲さん達が僕の横に並び立つ。

 僕の目から見ても皆かなり緊張しており、釣られる様に僕も緊張してくる。


「あ、あのあのあの、こ、これこれこれ――」

「……紫雲、全然言えてない。心のリハーサルで言ってた『あなたの為だけに作りました。どうか受け取ってください』が一文字も言えてない」

「う、うぅうるしゃいっ!! そ、そんなこと思ってないっ!!」

「……そう、じゃあ私が渡しておく」

「え、あ? ちょっと、待って――?!」


 顔を真赤にしている紫雲さんの手から可愛らしく包装された包をふんだくると、暁理さんは無造作にその包を僕の机の上に置いた。

 これは受け取っていいものなのだろうか。

 僕は判断に困って紫雲さんと包との間を何度も視線を往復させる。


「ょければ、食べてくださぃ。お願いしますぅ」


 涙目になりながら紫雲さんはがっくりと脱力する。

 そんな泣くような事態なのだろうかこれは。

 僕は自殺しそうな勢いで落ち込む紫雲さんを見ながら、若干引いていた。

 学校でのバレンタインデーと言うものが、こんなにも過酷?だったとは。

 僕は改めて世間と自宅での境遇のズレを実感した。


「……私からはこれ。材料は美味しかったから、きっと食べれる。――――――多分」

「ありがとうございます」


 暁理さんから真っ黒な包を受け取ろうとする。

 中身は多分流れから言ってチョコレートだろう。

 そして材料が美味しいのであれば、きっとそれを使ったチョコも美味しいのだろう。

 僕は何の疑問も持たずに受け取ろうとした。

 そこへ先程からイライラしていたクリスティナさんがストップを掛ける。


「いや待ってくださいキョウさん。何を普通に受け取ろうとしているのですか」

「え? だって美味しいって……」

です。バレンタインとはいえ、そんな危なげな物を受け取ろうとしないでください」

「?」

「不思議そうな顔をしないでください。兎も角先程の発言を撤回しないかぎり、これは没収とさせてもらいます」


 クリスティナさんはそう言いながら暁理さんのチョコを取ってしまう。


「……さっきのは冗談。紫雲おかんの監督のもと作ったから味も大丈夫」

「誰がおかんだ、誰がっ」


 暁理さんの言葉に起き上がり、憤慨する紫雲さん。

 そんな二人のやり取りに呆れた視線を送りながらも、クリスティナさんはチョコを返す。


「茶化そうとせず初めからそう言えばいいのです」

「……ん。見かけは少し崩れてるけど、頑張って作った、から……」

「ありがとうございます。大事に食べますね」


 目を背け、少し照れている暁理さんから今度こそチョコを受け取った。

 すると机の下から同じ顔をしたハクさん達が生えてくる。


「次は――」

「――私達のチョコ~」

「「じゃん、名付けて『運試しチョコ』」」


 ハクさん達は同時にそれぞれのチョコレートを出す。

 僕から見て左のハクさんが赤い箱で右のハクさんが茶色の箱だ。


「どちらかハチミツと練乳たっぷりチョコで――」

「――どちらかがカカオ100%の超ビターなチョコだよ」

「運試しじゃなくて、もうそれどっち食べても罰ゲームだよね?! しかもビターな方はチョコじゃなくて唯のカカオだよね?!」

「「しかもなんと無添加・無加工。純度100%を堪能できます」」

「だからもうそれ唯のカカオ包んだだけだよね?!」


 ハクさん達の言葉に真さんは思わずツッコミを入れる。

 僕自身は甘い物は好きなのでそちらは大丈夫だが、カカオ100%ってどんな味なんだろうか、とか考えていた。

 勿論食べ物であれば何でも食べるわけだが。


「「どっちも食べてね」」

「ありがとうございます」

「しかも普通に受け取った!? ちょっと、クリスさん。これいいんですか?」

「まあ、カカオは体にいいといいますし……」

「いいんだ……。クリスさんの判断基準が全然わからない」


 真さんは両手で頭を抱えながら、ウンウン唸る。

 僕も基準がさっぱりわからなかったが、いつもの事なので諦める事にした。

 そんな様子を見ていた識さんは、頃合いとでも言うようにずっと閉じたままだった口を漸く開く。


「さて、全員配ったな? じゃあ席に戻るぞ」


 そしてそのまま流れに乗ってそそくさと席に戻ろうとし始める。

 だが――。


「逃げようたってそうは行かないよ、識」

「……諦めてチョコ渡す」

「「そうだそうだ」」


 それを先読みしていたのか、紫雲さん達が取り囲み退路を塞ぐ。

 その評定からは目的を達成するまで逃さない、と言う覚悟が皆から感じ取れる。

 一体何がそこまで皆を駆り立てるのだろうか。

 僕は不思議で仕方がなかった。

 識さんは暫く睨み合いを続けていたが、根負けしたのか、面倒くさくなったのか、溜息と共に再び僕の方へ振り返る。


「ほら、これでも食ってろ」


 そして山吹色の箱を投げてよこした。

 その箱には少し見覚えがあり、売店で売っているのを見た記憶がある。

 僕はそれをキャッチすると同時に、箱に書かれている名前を読み上げた。


「カ○リーメイトチョコ味?」

「手軽にバランスよく栄養の取れる携帯食だ。それに味も悪く無い」


 面倒くさそうにしながらも、どこか誇らしげに見える表情で識さんは言う。

 僕はただその説明に感心する。

 こんな小さい箱なのに手軽にバランスよく栄養が取れて、美味しいらしい。

 まるで夢の様な食べ物だと僕は思った。

 ただ僕以外のリアクションは違ったらしく、皆一様に白けたと言うか呆れた様な目線で識さんを見ていた。


「ない。うん、流石にこれはない」

「最早ノーコメントです」

「昨日チョコ買いに行くって言うから放置してたけど、まさかこれを買ってくるとは……」

「……流石識、酷い」

「ハクちゃんフォローは?」「これは無理じゃないのかな?」


 皆示し合わせたかの様に一斉に識さんを非難し始める。

 そんなに悪い事なのだろうか。

 僕はもらったチョコを見ながら首をひねった。


「煩いな、私が何を渡そうが私の勝手だろ? と言うか態々店で売っているチョコ溶かして、より不味い物体に作り変えたものを愛情と評して配るこのイベント自体がおかしいんだよ」

「それバレンタインデー全否定だよね」

「だから嫌だって言ってるだろ。それとホワイトデーのお返しもいいから、この話はこれで終了な」

「あっ識、ちょっと待って」


 帰りたくて仕方がないという態度の識さんを止めつつ、紫雲さん達は妙にもじもじとした態度で僕の方を見る。

 なんだろう?

 料金でも掛かるのだろうか。

 僕のお小遣いで払えるのであれば出来るかぎり払いたいと思うが、どのくらいなのだろうか。


「……違う。いや大幅には違わないけど、兎に角そういう要求じゃない」

「? じゃあ……」

「キョウ君その……もし良かったらでいいんだけど……その、お返しについてなんだけど……」


 お返しという言葉から察するに、チョコレートのお返しの事だろう。

 でもお金ではないとしたらなんだろう。

 僕としてはお金が僕の中で提供できる最大の対価だと思うのだが。


「えっと、僕に出来る事なら何でもしますけど。ただ、料理は切ると焼くしか出来ないので、全然期待できないといいますか……」


 僕はどんな要求をされるかドキドキしながらも、先に料理がダメな事を告げる。

 態々手作りで作ってくれたチョコに対して、僕の原始人的料理では吊り合わないにも程がある。

 他に釣り合いの取れるものが僕にあるのかと言われると、答えに困るが少なくとも同じ食べ物よりはマシだろう。


「何でも?! な、何でもいいの?!」

「え? あの、僕に出来る事なら、ですけど……」


 鼻息を荒くしながら紫雲さんは僕に詰め寄ってくる。

 一体僕に何をさせる気だろうか。

 僕はかなり不安になった。


「……一時間だけ抱枕で」

「「あ、じゃあ私達は散歩で」」

「わ、私は――ホワイトデーの日にその、デートとか……」


 抱枕に散歩にデート?

 散歩に百歩譲ってデートは兎も角、抱枕ってなんだろう。

 一時間だけ枕カバーの中に押し込められるのだろうか?

 まあそれはそれとして、今僕にはもっと聞かなければならない問題があった。


「あの、僕に出来る事なら別に構わないんですけど、一つ聞いていいですか?」

「な、何かな?」

?」


 僕がそう言った瞬間、それまでわいわいと騒いでいたクラスがシーンと静まり返った。

 何かまずい事を言ってしまったのだろうか。


「その前にさ、こっちも一つ聞いていい? キョウにとってバレンタインデーって何?」


 何って、こんなにもチョコレートがいっぱいな日なのだ。

 それは当然――。


「えっと、チョコレートを好きなだけ食べて良い日、ですよね?」

「あぁ、そういう認識だったんだ。なるほどね」


 僕の言葉に皆一様に溜息を吐いたり、額を抑えたりし始める。


「あの、キョウさんの今までのバレンタインはどんな感じだったんですか?」

「毎年きよさんが世界中のチョコレートを山のように持ってきて、『今日だけは遠慮せず好きに食べていい』って……。だからてっきりバレンタインデーはチョコを好きなだけ食べて良い日と……」

「分かりました、もう結構です。と言うかキョウさんがバレンタインのイベントを知っている時点で可笑しいことに気付くべきでした」


 クリスティナさんは額を抑えたまま、バッサリと切り捨てる。

 散々な言われようだが、今まで色々な事をやってしまった過去があるので僕は何も言い返せなかった。


「と言うか、そのチョコ全部食べる気だったのか?」

「そう、ですけど……なにか不味かったですか?」


 皆が脱力している中、識さんはウンザリするような眼で僕の目の前のチョコに視線を送る。

 その額には何故か三つ目の眼が出現していた。

 識さんは妖魔化すると眼が九つに増える。

 その瞳で見れば様々な事が分かるらしいが、チョコレートに何かあるのだろうか。


「いや不味いというかだな、手作りっぽいやつは食べないほうがいいな。血とか唾とか薬とか虫とか入ってるぞ、それ」

「ぴぎゃ~~~~~っ!!!!」


 識さんがそう言った瞬間、真さんが椅子から転げ落ちる。

 そして脇目もふらず教室の外まで駆け出していった。

 お手洗いにでも行くのだろうか。


「虫って蜂の子とかイナゴとかですか? それなら全然――」

「いやそんな可愛いもんじゃないな。人体に寄生して宿主をコントロールとかするタイプだ」

「それは流石にちょっと……」


 流石の僕もそれにはゲンナリする。

 いや血とか唾もいいわけじゃないが、それに関しては間違って入ってしまった可能性もあるはず。

 作った人の気持ちを考えると、その程度の事で食べる事を嫌になったりはしない。


「……血とか唾が間違って入るわけ無い。全部確信犯に決まってる」

「そんな事を態とする人なんているわけないじゃないですか」


 僕は暁理さんの言葉を否定する。

 そんな意味の分からない行為をする人がいるわけない。

 だけど暁理さんは首を振ると。


「……自分の体の一部が好きな相手の体の一部になる事に興奮する人も世の中にはいる。実際キョウの知り合いにも――」

「と、兎も角、これらは没収とさせてもらいます」

「えぇ?! そんな?」


 クリスティナさんは言うと同時に、やや慌てた様子で僕の机の上のチョコを大きな袋の中へと移動させ始める。

 何をそんなに焦っているのだろうか。

 暁理さんが無言でクリスティナさんの事を見つめている事も含めて気になった。


「いや私はまだ食べる気だったキョウの方にびっくりなんだけど」

「拒否権は有りません、没収です」

「はい……」


 有無を言わさぬ口調のクリスティナさんに、僕は頷くしか出来なかったのであった。

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