第10話

 理那は教室にいなかった。

 それどころか机すらなく、今トオルの後ろには別の生徒が座っている。相澤理那という女の子は最初から存在していないかのようだった。

「なにやってんだよ、ぼーっとしてさ」

 授業が終わり、合間の十分休み。凛太郎が話しかけてきた。

「そんなにぼーっとしてたか?」

「してたよ。なぁなぁ、A組の直美ちゃんってかわいいよな!」

「おいおい、理那にあれだけお熱だったのに。もう鞍替えか?」

 トオルが言うと、凛太郎はきょとんとした表情になった。

「リナ? 誰だよそれ」

 トオルが返答に困っていると、凛太郎が怪訝な顔を作った。

「お前……もしかして二次元の嫁か……? おいおい、ついにオタクになっちゃった系……?」

「んなわけねーだろ」

 ビシッ、と軽く凛太郎の頭にチョップ。

「うぉちっ!」

 やれやれ。

 理那が最初からいないかのような世界。

 元の世界に帰してくれるって言ってたくせに、自分はいないんじゃないか。トオルは彼女に文句を言いたくなった。

 後頭部に違和感を覚えて、トオルは手探りで後ろ髪のあたりを触る。

 その瞬間、指先に髪が絡まった感触。

 指を通す。するりとほどけてしまった。

 理那が結んだみつあみだった。

 まだあったのかと心の中で苦笑しつつ、トオルはみつあみを結った彼女のことを思い出していた。

 自由で気ままな理那。今頃トオルと同じような人を助けているのだろうか。

 また会いたいな、とトオルは思った。今度会えたら、言えなかった言葉を届けたかった。

 オレも君が好きだ、と。

 理那のみつあみがあった場所を、トオルはもう一度指で梳いた。

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相澤理那のみつあみ つなくっく @tunacook

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