ヘイ Kami! ③


「こうなったら行動あるのみよ!」


 マグをガツンとテーブルに叩き置く。


「昨日は元彼のことでムシャクシャしてたから、変なこと口走っちゃったのよ。失恋の傷を癒すには、新しい出会いよ! 新しい恋よ!! それがきっと私の願いだわ!

 そうと決まれば行くわよ天使! いざ戦場えきまえへ!!」


「はい!!」


 腰に手を当てて明るい窓の方向をビシッと指差す。天使と2人、窓の向こうの光さす海を見つめた。



 ✳︎



 私が住む街は海が自慢の観光地でもあって、その海を眺めるように建てられた観音様が名物だ。観音様の内部は登れるように階段になっていて、上から見られる景色が綺麗と評判なのだ。ここ数年で観音様の近辺に新しいカフェやお土産屋さんが立ち並ぶようになってからは、特にたくさんの人がくるようになった。

 そんな、観光客で賑わう駅前に立ってもうかれこれ2時間はたつ。


「……。だぁーれも声かけてこないわね」


「あの……これから観音様を拝みに行こうという人が、ナンパなんてしないんじゃあないでしょうか」


「なぁによ。天使だってはりきってたじゃない」


 相変わらず端末のカウントダウンは止まらない。ふむ、困った。

いざ! とか言っておいて今更だけど、ぶっちゃけそこまで新しい出会いを求めてない。


 自然と私の側にいて、気づいたらもう大切で。ああ、私にはこの人なんだ、って腑に落ちる感じ。そういうのが出会いだと思うから。

 結局またしても勢いで変な行動を起こしてしまったことを反省しつつ、天使の手に持つ端末を見て思いついた。


「そういえば、それ福音? 受信端末だっけ? ちょっとかして」


「えっ?」


 灯台下暗しよ。『神のみぞ知る』っていう端末が手元にあるじゃない。そもそもの私の願いが何なのか教えて貰えばいい。


「ヘイKami!」


『はい、ミカではなくサツキ。こんにちは』


「そもそも私が願ったことは何?」


 私が端末に話しかけると、黒い画面が写したのは私の顔。インカメラ、じゃない。


「鏡?」


 ぷつっと画面が変わって、返事が帰ってきた。


『見つめなさい。そこに光があるはずです』


 画面がカウントダウンに戻った。


「はぁ?」


「神の福音ですね。要約すると「自分と向き合って考えなさい。自分の願いだからわかるはずだよ? ガンバ!」ってことです。彩月さん貴重ですよ。天使以外に返事くれるなんて。飲み仲間になって良かったですね」


 私の表情に何か感じるところがあったらしい。天使の目は泳ぎ、努めて明るい声で良かった良かったと繰り返す。


「向き合って、か……」


 駅前の時計から午後3時のチャイムが流れた。

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