ヘイ Kami! ②
「……その格好どしたの?」
「ああ、これは日本に住む人の服装を真似たものです。
東京の中心にいる人々は皆こういう服装でしたので、馴染みやすいかと思いまして」
「東京の中心……。あぁ、確かに。中心をぐるぐる走ってる人達はその格好だけど。でもそれは一部の人だけで、この辺だとあんまりいないのよ」
「そうなんですか」
落ちた海は私の住む街だったので、歩いて帰ってこれた。冷えた体にいいかと思い、ホットミルクを作った……といっても牛乳をレンチンしただけだけど。天使にマグを渡すと、ちびちびとだがよく飲む。俯くと睫毛の長さがよくわかる。綺麗な子だ。
つーか、天使も飲むのね牛乳。
濡れた服は帰宅早々に着替え、天使にも私のスウェットを着てもらった。レディースサイズだか天使は小さい。ぶかぶかの袖をまくってあげたらずいぶんと可愛らしくなった。
高台にあるアパートの一室。部屋の窓からさっき落ちた海が遠くによく見える。暖かい日とはいえ体の芯は冷えてしまって、ホットミルクが体に染みる。一息入れて、頭も幾分冷静になった。
『男なんていらない。』
大方そんなことを口にしたのだろう。口にする理由には心当たりがあった。しかし、叶えようとする神様も神様だ。
「いいの? 男の人みんな消したら人類滅亡じゃない」
「神は人類の願いを聞き、叶えます。選ばれたあなたの願いが人類の願いとされましたから、そういう未来になりますね。そこに善悪はありませんよ。人類の願いを叶えるだけですから」
禁酒しよう。今心に誓った。
「あのさ、なんで男の人が消えるまでに猶予があるのかな?」
「なんか、私の願いが叶わなければ男なんてみんないらないっておっしゃったみたいですよ」
「そうかぁ。私の願ったもう一つの事次第で人類滅亡は免れるのね」
「はい! 先ほど叶えました! 海に行きたいって願い」
「……へ?」
「神様にあとよろしくって言われてとりあえず家にお連れしようとしたところ、海ー海ーっておっしゃってましたので。彩月さん、人類滅亡は免れたいんですよね? 他の願いが叶ったから、そろそろカウントダウンも止まってるはず……」
自信満々に説明する天使は腰のポシェットから先程の四角い物体を取り出そうとする。
いや、そもそもの話。
「だからって、海に落としたらダメでしょうがっ!!」
思わず声が大きくなってしまった。
「いい? 海に行きたいっていうのは海の中に入ることじゃないのよ。まずいきなり海に落っこちる人間なんかいないの。服のまま海に入ったら服濡れちゃうし、かえって大変じゃない。そもそも今の季節に海に入る人なんかいないわ」
「そうなんですか……。すみません」
天使がシュンとして肩を落とす。
願いを叶えるために一生懸命らしいのは何となくわかったけど、ちょっとズレてるのよね。叶え方が粗くない? 神様も、天使も。
一言で言うと、雑。
「彩月さん」
シュンとした佇まいのまま、天使は続けた。
「僕、……実は、天使になってからまだ一度も願いを叶えられてないんです」
天使の腰のポシェットから取り出した四角い物体が、カチ、カチ、と音を立てている。人類滅亡へのカウントダウンはまだ止まっていなかった。
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