第十一章

 連れていかれたのは、この前ライブをやったライブハウス。中に入ると、派手な男の人が四人。

「皆さん、連れてきましたよ。」

「あ、オーナー、その子が言ってた女の子ですか?」

「へー、かわいいじゃん。」

 そう言って舐めまわすように見られる。嫌だ、怖い。

「そうです。風野天さんです。さ、早速実力を見せてもらいましょう。」

「天ちゃんね、大丈夫、怖くないよ。こっちおいで。僕たちと歌おう。」

 そう言われて、腕を掴まれる。必死に首を振るけど、ステージにあげられてしまった。

「いつもの声出しでいいよね~。…さ、やろうか。」

「天ちゃん、ケガしたくなかったら歌ってね。」

 怖い顔でギターの人に言われてから、演奏が始まる。いつもみんなと歌う曲。歌わなきゃ。

「……!」

 でも、声が出なかった。昔に戻ったみたいに…。

「おい、歌えって言ったよな?」

 後ろからそう言われて、振り向くとドラムの人が怒ってる。

「まあまあ、きっと緊張してるんだよ。もう一回やってみようか。」

 そう言って何回も歌おうとするけど、声は出なかった。

「お前、歌う気ねーだろ!!」

「キャ!!」

 五回目くらい同じことを繰り返すと、ついにドラムの人に水をかけられた。その後、ギターの人に胸倉をつかまれる。

「こっちは真面目にやってんだよ!いい加減歌いやがれ!!」

「…っ!」

 そのままステージから投げ落とされる。背中を打って痛い。

「困るんだよね~、こんなんじゃ。俺たち、ここで一番にならなきゃいけないからさ~。」

「迷惑料、体で支払ってもらう?」

 いやらしい目で見られて、背中がぞわっとする。怖い。

「そうだね、そうしてもらおうか。いいでしょオーナー?」

「好きにしていいですよ。」

 それだけ言うと、四人がステージから降りてきた。ヤダ、怖い。助けて…。

「みんな、助けて…!!」

 そう呟くとタイミングよく後ろの扉が開いた。その後すぐ、背中から暖かく包まれる。

「ごめんね天。遅くなって。」

 聞き覚えのある声に振り向くと、すぐ横に桃君の顔があった。

「とう、くん?」

「うん、そうだよ。みんなで助けに来たんだ!」

 桃君がそう言った直後、私たちの前に人の壁が出来た。

「天ちゃん、濡れてる!!大丈夫?寒くない?」

「ゆう、くん。」

 夕君はそう言って着ていた上着をかけてくれた。

「天、何をされた!?けがはないか?」

「しゅう、くん。」

 柊君は、四人を睨みつける。

「守れなくて、ごめんな、天。」

「りょう、くん」

 悔しそうに顔をゆがめながら、涼君は言った。

「みんな、きて、くれたの?」

 まだ、うまく声が出せない。それでも、みんなはゆっくり聞いてくれた。

「当たり前じゃん。君が居なきゃ、天が居なきゃ俺たちの旅は始まらないんだから。」

 桃君がそう言うと、みんな頷く。みんなと旅を続けていいと言われてるんだ。

「さ、後は涼と柊に任せて、俺たちは車に戻ろう?」

「え、で、でも…」

「大丈夫だって、けんかはする気ないから。」

 涼君の言葉に柊君も頷く。

「だってさ、行こう天ちゃん。」

「う、うん。」

 そう言われて、桃君と夕君に連れられて私は車に戻った。出る前に、あの四人が大きな声出してたけど、大丈夫かな…?

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パザジール 雪野 ゆずり @yuzuri

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