第九章

 ライブの次の日、私は師匠に呼ばれて一人で師匠のライブハウスに行った。

「あ、あの、どうしたんですか?」

「ああ、昨日のライブハウスのオーナーが嬢ちゃんに伝えたいことがあるそうだ。」

「私に?」

「そうだ。まあ、来るまで時間があるし、お茶でも飲みな。」

 そう言って師匠はお茶を持ってきてくれた。なんだろう、伝えたいことって…。


「いやぁ、遅くなってすまなかったね。」

 オーナーさんはそう言ってにこやかに入ってきた。

「いえ、あの、それで伝えたいことって…?」

「ああ、悪いね。実は君に、いや、君たちに私のライブハウスで正式に演奏をしてもらいたいんだ。」

「え…?」

 正式にってどういうことだろう…?

「この間のは正式じゃなかったのか?」

 一緒に話を聞いていた師匠がそう言った。

「まあ、そんなところだ。この間のはお試しというか、まあいわゆるオーディションだと思ってくれ。」

「オーディション?」

「そう、あの中でどのグループを選ぼうか、見極めてたんだ。それで、君たちが選ばれた。」

「私たちが…。」

 そんな奇跡があるんだろうか…?

「まあ、君一人では決められないだろう。帰ってメンバーと話し合ってくれ。詳しい話はそれからだ。」

「あ、あの、一つ聞いていいですか?」

 きっとみんな気になること。

「もし、そちらのライブハウス演奏することになっても、このライブハウスで演奏できますか?」

 ここには顔見知りのお客さんもいる。私たちの初めてが詰まってる。だから、ここでも演奏がしたい。

「もちろんだよ。」

 私の悩みにオーナーさんは笑顔で言った。

「私のライブハウスは契約制じゃないからね。そこは安心してほしい。」

「そうですか…。良かった…。」

 少し安心。それなら皆に話せる。

「分かりました、皆に話してみます。」

「うん、いい結果を待ってるよ。」

 そう言ってオーナーさんは帰って行った。


「嬢ちゃん、きぃつけてな。坊主たちによろしく。」

「はい、ありがとうございます。」

 師匠に見送られ、私は家路についた。せっかくだから買い物してから帰ろう。夕飯は何にしようかな…。

「あれ?天ちゃん!」

 その声に振り向くと夕君と柊くんがいた。

「二人とも!どうしたの?」

「俺たちは、いわゆるおつかいだ。だがこれを届けたら今日は帰れる。」

「仕事場、すぐ近くだから、お買い物終わったら待ってて、迎えに来るよ!」

「ありがとう!お言葉に甘えます。あ、ご飯何がいい?」

 私が聞くと二人は「う~ん」と悩んだ。

「あ、僕、ハンバーグ食べたい!!」

「お、いいな。天のハンバーグは特別おいしいからな。」

「そ、そんなことないと思うけど…分かった!じゃあ食材買って待ってるね!!」

「うん!」

「じゃあ、またあとで。」

 そう言って夕君たちと別れた。


 買い物が終わって、夕君たちと家に帰った。夕飯を作りながらも皆になんて言おうか悩んでいた。だってこんなことがあるなんて思ってなかったもん!!

 そして、練習の時間が来てしまった。ああ、なんて言おう!!

「よし、じゃあ始めるか!!」

 涼君がそう言って皆楽器を持つ。ええい、今言っちゃえ!

「み、皆!話があるんだけど、いいかな?」

「え?天の話?聞きたい聞きたい!」

 桃君の言葉にみんな頷いた。良かった…。

 そして、今日の話をそのまました。

「まじ、かよ…。」

「そんなことになるなんて…。」

「天、それは本当の話か?」

 涼君、夕君、柊君はそれぞれそう言った。

「うん、ホントの話。私も信じられないけど…。」

「うわー!!それってすごいことじゃん!!俺たち、認められたんだ!!」

 私の言葉に、桃君は大はしゃぎした。その隣で柊君も頷いている。

「でも、なんで天だけ呼んでそんな話したんだ?」

 冷静に、そう言ったのは涼君だった。

「確かに…、普通はメンバー全員呼ぶか、前回のライブで事務仕事をした涼君に行くはず…なのに、なんで天ちゃんだけ?」

 二人の言葉に、皆ハッとした。

「で、でも、天がメインボーカルで、印象に残ったからじゃない?」

「それならそれでいいけど…。」

「まさか、涼。天が狙われてると思ってるのか?」

「え?なんで、私…?」

 柊君の言葉に、びっくりした。だって、私は楽器も演奏できないのに…。

「そっか、天ちゃんは魅力的な声だし、歌い方もまっすぐで、声量もある。ライブハウスに置けば、いい宣伝になるかも…。」

「そんな、考えすぎじゃ…。」

「まあ、用心することに越したことはないさ。」

 そう言って、涼君は私の頭にポンと手を置いた。

「そうだな。天は俺たちの歌姫だから、手放すわけにいかないしな。」

 柊君は頷きながらそう言う。

「うん!俺、天がいない頃になんて戻りたくないもん!!」

「僕も!だから、何があっても守るからね!!」

「皆…!ありがとう。」

 泣きそうになりながらお礼を言うと皆笑ってくれた。

「よっし、じゃあ嫌なことは一旦忘れて、練習するか!」

 涼君のその言葉にうなずいてから、練習は始まった。

 

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