第七章

 ついに本番当日になってしまった。ど、どうしよう、全然落ち着かない…。さっきからリビングの端から端を行ったり来たりしている。

「おい天。そんなにうろうろしても仕方ないぞ。とりあえず座れよ。」

「そ、そうだね…。」

 見かねたように涼君に言われて皆の所に戻る。でも…ああ、落ち着かない!!

「天、そんなにライブ心配?」

「え?」

 桃君に心配そうに聞かれる。

「まさか、うまくいかないと思ってるんじゃないだろうな?」

「ええ!?そ、そんなこと言わないでよ!僕まで心配になってくるじゃん。」

 柊君と夕君が口々にそう言う。

「え、えっと、そうじゃないんだけど…。何て言ったらいいんだろうな…。」

 私が言うと皆私を見る。ほんと、何て説明したらいいんだろう。

「その、皆と初めてステージに立った時と同じ感じ…かな。」

 そう言うと皆は少し笑った。

 そう、初めての時もそうだった。ドキドキワクワクなんだけど、同時に何をしたらいいか分からなくてオロオロもしてたし、どうなるのか、何が起きるのか心配もしていた。そんなごちゃ混ぜの感情を制御できないのは今も変わらない。

「じゃあ、一曲だけ歌うか!」

 そうしていると、涼君がそう言って立ち上がる。皆も頷いて私を見る。

「うん!!」

 笑顔でそう言うと防音室に向かう。中に入って一曲歌うだけで、そんなごちゃ混ぜがすっきりするようだった。


 19時スタートのライブが始まり、皆で控室に座っていた。順番は4番目、もちろんラスト。

 控室と言っても1グループ毎ではなく皆一緒の控室だった。それぞれギターの調子を見ている。ギターの涼君と、ベースの柊君も例外ではない。ただ、ドラムの桃君、キーボードの夕君は舞台裏に楽器があるから今は調子を見れないし、そもそも楽器を持たない私は何をしたらいいか途方に暮れていた。

 あと1時間。昼間のごちゃ混ぜと違って、今度ははっきり緊張しているのが分かる。何かしたいけど、何もできないのがもどかしい。

「そーら!!」

「わ!!」

 そんなこと思ってると後ろから桃君に抱き付かれた。すぐそばに夕君もいる。

「びっくりした~。どうしたの?」

「なんか天ちゃん、怖い顔してるから心配で、ね?」

「そうそう!なんかこわいぞ~!!」

 いけない、顔に出てた!!ああ、もう!皆には気付かれないようにと思ってたのに~!

「天ちゃん、大丈夫?」

「二人が目を放してるうちに全部吐いちゃえ!!」

 二人とも、自然体だ。

「すごい、緊張する…。」

 そんな二人を見ていると本音がポロっと零れ落ちた。すぐ口を塞いだけどもう遅かった。

「そうだね、僕も緊張するよ。」

 夕君がふわっと笑ってそう言う。当たり前だよね。きっと、皆緊張してる。

「でも、怖くないでしょ?初めての時より。」

 桃君にそう聞かれて、そう言われればと思う。確かに緊張するけど、怖くない。

「うん、怖くない。皆いるからかな?」

 そう言うと桃君と夕君は頷いた。そっか。今は皆に背中を預けらるまで信頼し合ってる。だから怖くないんだ。そう思うと緊張も心地いいと思える気がする。自然体でいられる気がする。

「うん、ありがとう、二人とも。ライブ、うまくいきそうだね!」

「…うん、そうだよ!」

「きっとうまくいくよ!」

 二人とも、そう言って笑ってくれた。私たちなら、大丈夫。

「おいおいなんだ~?俺たちだけ置いてけぼりか~?」

 調整が終わったのか涼君と柊君がそう言って絡んできた。

「遅いよー、もう終わっちゃった。」

「何を話してたんだ?」

 柊君にそう聞かれて、何て答えたらいいか悩む。まさか素直に言ってしまうのは恥ずかしい…。

「内緒だよ~。ねえ、天ちゃん。」

 夕君に言われて頷く。二人とも納得いかないという顔をしていたけど、仕方ないよね。

「パザジールの皆さん!準備お願いしまーす。」

 そう言われて時間を見ると、確かに私たちの順番の時間だ。早いな…。

「ねえねえ、行く前にあれやろうよ!」

 桃君の『あれ』は皆分かっていた。だから無言で頷くと円陣を組む。

「今日は誰が言おうか?」

「いつも涼だしな~…。」

「私、言いたい!!」

 掛け声を誰が言うか悩んでいるところに割り込んで言う。こういう時だから言いたい。

「よし、じゃあ、歌姫に俺たちの『旅』を始めてもらおうか!」

 涼君にそう言われて皆頷く。まだ、歌姫になれてるか不安だけど…。

 大きく息を吸って、皆に届くように…

「さあ、旅を始めよう!!」

「「「おう!!!」」」

 そして私たちはステージに、いや旅に出た。

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