第六章
本番2日前。
「出来た!!!」
皆が出かけている間に、最後の一着が完成した。ギリギリ間に合った。
「よし、あとは皆が帰って来るのを待つだけ。…じゃない!買い物行かなきゃ!!」
時間を見てびっくりする。まさかもうこんな時間に。タイムセール、間に合うかな?とりあえず衣装をきれいに畳んで部屋においておこう。とにかく急がなきゃ!!
「間に合った~。」
タイムセールにも、皆が帰ってくる時間にも間に合ってホッとする。良かった。
「ただいま。」
そう言って帰って来たのは涼君だった。
「涼君おかえり。さっき完成したよ。」
「お!おめでとう!!結局ほとんどそらにやってもらっちまったな。」
「ううん、色々手伝ってくれてありがとね。今日の練習で皆に渡そうと思うんだけどいいかな?」
「ああ、いいと思う。」
「ありがとう。じゃあそうするね。」
そう言うと涼君は頷いてから、荷物を置きに部屋に戻った。それから他の皆も帰ってきて、皆から「いいことあった?」と聞かれるくらい私の頬は緩んでいたのかな?
そうこうしているうちに夜の練習が始まってしまった。
「さて、いよいよ本番2日前だ。明日は皆休みだからきっちり練習しよう。」
「そうだな。…けど、その前に天からプレゼントがあるんだよ、な?」
「え、あ、えーっと…。」
急に振られてびっくりする。でも、涼君がくれたチャンス、活かさないと。
「そうなの、その…これ、なんだけど。」
そう言って出したのは出来立ての衣装たち。皆はびっくりした顔で私と衣装を交互に見てる。
「とりあえず、配るね。」
そう言って配ると、皆衣装を凝視してる。
「天ちゃん、これ、手作り?」
「うん、そうだよ。」
夕君にそう言われて頷くと皆首をかしげる。
「え、だって、業者の頼んだんじゃ…。」
「こっそり作ってたの、涼君と。」
「そうだったのか…。俺たちにも言ってくれれば手伝ったんだが…。」
残念そうに柊君が言う。
「ごめんね、ほんとは一人で作ろうと思ってたんだけど、涼君にばれちゃって…。」
「いや、いいんだ。ただ次からは声をかけてほしい。」
真剣にそう言われて、次からは頼ろうと思った。涼君と作ってるとき楽しかったから。皆でやったらもっと楽しいと思うから。
「うん、よろしくね。」
「ねえねえ、早く着うよ!!」
桃君が言うと皆頷く。私も早く着てみたいな。
「あ、そうそう、天はズボンじゃなくてこっちな。」
涼君はそう言って私にスカートを渡してきた。
「い、いつの間に…。って、結構短いね…。」
膝上くらいのスカートにびっくりする。時間がなくてズボンとジャケットしか作れなかったのに…。
「よし!じゃあ、各々部屋に戻って着替えるか!」
「ああ、下のTシャツはこのままでいいな。」
「そうだな。」
そう言って皆部屋に戻る。私も部屋で着てみる。スカートもぴったりですごい。本当にいつの間に作ってたんだろう?
「そらー、お前が最後だぞー!」
部屋の外からそう言われてハッとする。そ、そっか、皆早いな。
「今行くー!」
最後にもう一度姿見を見て変なところがいないか確認してから部屋を出る。防音室に入ると皆同じ衣装に身を包んでいた。当たり前かもしれないけど、皆お揃いは初めてだから、なんだか変な感じがする。
「お、来たな。」
「天ちゃん可愛い!!」
「うん、似合っている。」
「すっごいいい感じだよ!」
「ありがとう。作った私が言うのも何だけど、皆もかっこいいよ!」
皆で皆を褒め合う。少し恥ずかしいけど…。
「ねえねえ、今日はこれで練習しない?予行練習みたいな感じで!」
「ああ、そうだな。」
そうして練習が始まった。今日の練習は本当に予行練習で、ライブのセットリストどうりに練習した。一応、本番前に会場での練習もあるけど、時間がかかるのである程度完成させておきたかった。
次の日。衣装の下に着るTシャツを選ぶために私たちはショッピングモールに来ていた。
「よし、これにしよう。」
そう言って皆で同じものを取る。私もメンズのSサイズを取ると皆で「大きいんじゃないか?」と言われたけど、私もお揃いがいいからと言って納得してもらった。
「さて、あとは師匠の所行ってメイクの相談だな。」
そう、今回は師匠の奥さんと娘さんがメイクまでやってくれると言ってくれた。とてもありがたい。
「じゃあ、師匠のお店に行こう!!」
「車出してくれるのは涼君だけどね。」
ノリノリでそう言う桃君に夕君が冷静に突っ込む。
「よし、じゃあ行くか!」
そう言って皆で涼君の車に乗った。
「いらっしゃい。嬢ちゃんは俺の嫁さんが担当するそうだ。男子はここで待ちな。」
「ささ、天ちゃん。こっちこっち。」
そんな感じで師匠のお店に着くとすぐに皆と別れて別室に連れて行かれた。
「よ、よろしくお願いいたします。」
「はーい。じゃあ、目をつぶっててね。いいって言うまで開けちゃダメよ~。」
「は、はい。」
そう言って衣装に着替えてメイクが始まる。ちゃんとしたメイクなんて初めてだから緊張する…。
「髪もいじっていいのかしら?」
メイクが大体終わったみたいでそう聞かれる。目をつぶってるから何が何だかわからず頷く。そうすると陽気な声で「はーい」と言われる。
「ねえ、天ちゃん。」
「はい?」
「どうして、パザジールに入ってくれたの?」
そう言われてどうしてだろうと考える。でも、言えることは一つだけ。
「皆と歌うのが楽しかったんです。皆も楽しかったと言ってくれた。多分、理由なんてそれでいいんです。」
「そっか~。」
奥さんは満足そうにそう言うと私の肩をポンと叩いた。
「さて、もう目を開けていいわよ~。」
そう言われてそっと目を開ける。
「これが、私、ですか?」
鏡越しに頷かれてもう一度鏡の中の私を見る。まるで別人みたいだ。そう思ってると扉が開く。
「ママ―こっち終わったよー。…おお、天さん、きれい。」
入って来たのは師匠の娘さんだった。
「でしょ~。前からこういう事やってみたかったのよ~。」
「うん、さすがママ。」
二人ともそう言ってから私を見る。
「さ、天さん、行くよ。」
「え、ちょ、ちょっと待って、まだ、心の準備が…。」
「そんなの待ってたら明日になっちゃうよ。ほら、行くよ。」
そう言いながら背中を押される。そ、そんな、ほんとに待ってほしいのに…。そうしてるうちに皆のいる部屋の前まで来てしまった。
「ね、ねえ…。」
「問答無用!!」
そうして娘さんは私を押し出す。その力で転びそうになるのを涼君が支えてくれた。
「あ、ありがとう。」
そう言って顔を上げると涼君は固まっていた。
「あの、涼君?」
「わ、悪い!!」
涼君はそう言うと手を放してくれた。
「わあ、天ちゃんきれいだね!」
そう言ってくれたのは夕君だった。そっか、いつもと違う感じでびっくりしたんだ。
「ほんとだ!!いつもと違う!衣装のせいかな?」
「メイクも関係しているんだろう。下のTシャツは大きくなかったか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。皆もかっこいいね!」
いつもと違う皆に少しドキドキする。見慣れないからかな?
「ありがとう。…おい、朝日奈。いつまで固まってるんだ?」
「いや、至近距離でいきなり見たからその…ちょっとドキドキした。悪い。その、似合ってる。」
「ふふ、ありがとう。」
そんなことを言い合いながら私たちは笑いあった。
本番まであと一日。少し緊張するけど頑張ろう。そう、改めて思った。
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