第五章

 次の日。柊君と夕君は少しギスギスした感じで家を出ていった。それに続いて桃君も出る。最後に涼君なんだけど…。

「涼君!」

「なんだ?」

 少し頼みごとがあって涼君を引き留める。

「あの、衣装に使う布をお店に頼んであるから、帰りに取ってきてほしいんだけど…。」

「ん、分かった。店の地図とかあるか?」

「うん、これ。」

 地図を渡すと涼君は「分かった。いってきます。」とだけ言って出ていった。少し遠いお店だから車を持ってる涼君が手伝ってくれて助かる。

 よし、早く家事を終わらせて衣装づくり始めるぞ!


「ただいま~。」

 そう言って桃君が帰って来た。今日はいつもより早いな。

「おかえり、桃君今日は一番乗りだよ。」

「ほんと?やったね!」

 その後も玄関先で少し話をしていると涼君が帰って来た。

「ただいまー。」

「涼、おかえり。」

「おかえり。」

 そう桃君と一緒に迎えると涼君は驚いた顔をした。

「おお、今日は桃早かったんだ。珍しいな。」

「今日はいつもより早く終わったんだ。」

「そっか。良かったな。」

 そんな話をしていると桃君が涼君の持ってるものに気づいた。

「涼、それなに?布みたいだけど。」

「あ、これは…。」

 どうしよう、どうやって誤魔化そう。

「ああ、天がバッグ作るために頼んでたやつ、代わりに取りに行ってたんだよ。ほい、天。」

 さすが涼君。すぐにいい返しを思いつくな~。

「ありがとう、涼君。助かったよ~。」

「出来たら見せてね!」

 そう言って桃君はキラキラと目を輝かせた。こ、これは、余った布で作らなきゃな…。

「ただいま~」

「どうした、みんな揃って、玄関で話し合いか?」

 そうこうしてるうちに柊君と夕君が帰って来た。二人はギスギスした感じはなくなっていて、解決したように見えた。

「おかえり、二人とも。」

「けんかは解決したか?」

 涼君がそう聞くと二人は頷いて、楽譜を出した。

「ああ、最後には先生たちの意見を聞いてな、月永の意見でまとまった。」

「少し、難しいリズムになっちゃったけど、皆なら出来ると思うんだ。」

 夕君がそう言うと柊君も頷いた。

「ほんとだ、ここのリズムが…こうかな?」

 そう言って桃君は片手でももを叩いてリズムをとる。それを聞くと確かに少し難しそう。

「そうそう、さすが桃君。」

「でもこれ、ドラムでやるとなったら少し難しそうだな。」

「でも、これ面白そうだな。」

 そう言ったのは涼君だった。

「確かに、面白そう!」

 私がそう言うと、柊君と夕君は頷いた。

「やっぱりそう思う?」

「先生も同じことを言っていた。面白そうだし、やってみるといいと。」

「そうなんだ!」

「なあ、早速やってみようよ。」

 桃君は待ちきれないといった様子でそう言った。柊君も頷く。

「そうだな。早速防音室に…。」

「ストップお二人さん。その前にまずは夕飯食べるぞ。」

 ウキウキしている二人を止めたのは涼君だった。

「そ、そうだね。僕もうお腹ペコペコ。」

 それに続いて夕君もそう言う。

「じゃあ、ご飯にするね。もう出来上がってるから。」

「やった。じゃあ、全員手を洗いに行こう!」

 そう言って皆洗面台に向かって行った。


 ご飯を食べ終わってすぐに新曲の練習が始まった。他の曲がワクワクしないわけじゃないけど、新曲の時は新しい旅が始まる感覚があって、いつもよりワクワクする。

「天、ここの所なんだけど…」

「ん?…ああ、ここね。私は…」

 こんな感じで修正しながら完成させるのはとても楽しい。

 こんな感じで夜は更けていく。楽しくて、楽しくて。完成が待ち遠しくなるほどに…。

 

 新曲が出来てからは日付が変わるまで練習した後、私と涼君は部屋で衣装づくりにいそしんでいた。次の日のことも考えて、一時間くらいしかできないけど何もやらないよりはましだ。

「天、これで大丈夫か?」

「うん、大丈夫。…あ、もうこんな時間だね。今日はここまでにしよっか。」

 いつの間にか約束の時間が過ぎてしまっていること気付いた。涼君明日も仕事なのに申し訳ない。

「そうか、キリもいいし、続きはまた明日だな。」

 涼君のおかげで、作業は早く終わりそうだった。

「いつもありがとうね、おかげで間に合いそうだよ。」

「いいって。じゃあ、おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

 そう言って涼君は出ていった。私も布団に入ると、すぐに寝てしまった。

  

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