第四章
一週間後。私たちはいきなり窮地に立たされていた。
「だから、ここのリズムはこうした方がいいと思う。」
「いや、ここだけは譲れない!」
柊君と夕君の、新曲の意見が合わないらしく、けんかになっていた。いつもなら話し合いで妥協案を出して終わるところが、お互い意地になってしまっていた。
「ね、ねえ、二人とも…。」
「桃君は黙ってて!」
今回は珍しく夕君も熱くなってしまって、横から口出しできない。作曲に関しては私たちも二人に任せっきりになってしまっているので、意見を言うこともできない。
「ここのリズムはこっちよりも…こっちに方がしっくりくる。」
柊君が夕君のピアノを使いながら説明している。
「いいや、難しいかもしれないけど、こっちのほうがきれいに聞こえるよ!」
夕君も、演奏しながら返す。その二つは、同じように聞こえて微妙に違っていた。
そう言いながらかれこれ30分くらい続いている。そろそろ準備しないと、師匠のお店を借りて定期的にやらせてもらっているライブに間に合わない。
「お前ら!」
そう思ってると涼君が声を上げた。二人ともビクッとする。
「そろそろ練習始めないとライブに間に合わない。二人の言い分はまた後で、ゆっくり聞かせてもらうから、今はこっちに来てくれるか?」
「ああ、悪い。」
「分かった。」
こういう時、冷静にものを見て判断して、ものを言ってくれるのは涼君の仕事になってた。いつも助かってます。
「よし、じゃあ、練習始めるぞ。」
そうして、少しギスギスしながら練習が始まった。
何とかライブが終わって、家に帰って来てからも二人のけんかは続いていた。ライブ中、穏便に取り繕ってくれてたけど、常連のお客さんには「何かあった?」と聞かれてしまった。
「ったく、仕方ないな…。」
「こうなったら、二人とも引かないからね~。」
「特に夕はな。」
そう言って桃君と涼君はため息を吐く。そんな二人の前にお茶を置いた。
「お、サンキュ!」
「ありがとう、天。二人には?」
「おいてきたよ。でも、気付いてないみたい。」
そう言って二人のほうを見る。本当に気付いてないみたいで、倒すんじゃないかとひやひやする。
「ま、たまにはいいだろ。明日にはこのけんかも終わるだろうし。」
「え?どうして?」
涼君の前向きな言葉に首をかしげる。どうしてだろう?
「ほら、明日は月曜日。二人が世話になってる先生たちの意見も聞けるからな。」
「なるほど、その意見が聞ければ自然と解決するって事?」
「そういう事。まあ、それでヒートアップするかもしれないけどな。」
そう言って二人は笑う。確かに涼君の言う通りかもしれない。と言うよりもそうなってほしい。
「じゃあ、俺たちは寝るか。」
「そうだね。」
「うん、おやすみ。」
そう言って私たちは部屋に戻った。
部屋に戻ってしばらくして、私はミシンの前に座った。昨日やっと1着出来上がったから、この調子で、あと3着と、私用の1着を作ってしまいたかった。皆に気づかれる前に。
採寸は業者さんに頼むからと嘘をついてやらせてもらった。最初にできたのは夕君のもの。次は柊君のものを作る。間に合わせるためにもそれこそ寝る間も惜しんで作らなきゃいけなかった。
「天?何やってるんだ?」
そう思ってるときに不意にそう聞かれて振り返ると涼君がいた。
「悪い、少し部屋の戸が開いてて、覗いたらまだ天が起きてるから、その心配で…。」
「う、ううん…。」
見られちゃった!どうしよう。私の目の前には出来上がった衣装が下がってるし、作りかけのものだってある。どうしよう、どうしよう…。
「それ、まさか衣装か?」
「う、うん。」
ああ、ばれてしまった。怒られるかな?
「まさか、5人分、一人で作ろうとしてるのか?」
「お、お願い!ほかの3人には言わないで!これくらいしか私にはできないから…。」
「いや、他のやつらに言う気はないけど…。入っていいか?」
私が頷くと涼君は私の前まで来て止まった。
「その、足手まといになるかもしれないけど…俺も手伝っていいか?」
「え?」
予想外の言葉に驚く。手伝うって、私を?
「その、二人でやれば、少しは早く終わるかなって思ったんだけど、どうだ?」
「え、えっと、もちろんいいっていうか、むしろお願いしたいくらいなんだけど、いいの?」
「ああ、ついでに作り方とか教えてほしい。そうすればなんかあった時役に立つだろ?」
「うん!」
良かった。二人でできるなら早く終わる。正直間に合う気がしなかったから。
「じゃあ、今日は遅いから明日から。天ももう寝るんだぞ。」
「うん、おやすみ。」
そう言って涼君は出ていった。私もキリのいい所で切り上げて寝ることにした。
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