第三章
写真を撮って、その後もしばらくはしゃいでいた皆も、今は静かにしている。ライブハウスのオーナーさんが来たからだ。あれれだけハイテンションだった桃君も座ってじっとしていた。
「ご足労をおかけして申し訳ありません。」
そう切り出したのは涼君だった。いつもひょうひょうとしている彼でも今ばっかりは緊張しているみたいだった。
「いやいや、いい返事をいただけて嬉しくてね、待つ時間が惜しいと思ってきてしまったんだよ。改めて、依頼を受けてくれてありがとう。」
そう言って深々と頭を下げられて私たちも頭を下げる。お互いが頭を上げたタイミングで打ち合わせが始まった。
「今回はアマチュアバンドを複数集めてのライブでね、一バンド大体30分くらいの持ち時間になる。何曲やるかは自由だし、来たお客さんにアピールしてもいい。順番はもう決まっていて君たちは一番最後だ。」
「い、一番最後!?」
思わず声を上げてしまった。皆も驚いた顔をしていた。
「何か不都合でも?」
「い、いえ、すみません、驚いただけです。」
「そうか、なら続けよう。」
そうして淡々と話は進んだ。
「まあ、順番を決めたのは私だ。今までアマチュアバンドをいくつも見てきたが、君たちが一番『いい』と思ったんだ。一番最後にしようと思ったんだ。」
そう笑顔で言ってくれた。
その後も細かい所の打ち合わせもした。ライブは一か月後。それまでに色んな準備をしなきゃいけない。いそがしくなるぞー!
「では、また一週間前に様子を見に来るから。」
そう言ってオーナーさんは去っていった。
オーナーさんが帰ってからもしばらくは皆無言だった。大きな舞台に立てる。それは嬉しいけど、順番でプレッシャーを感じているんだと思う。沈黙を破ったのは師匠の意外な一言だった。
「試そうとしてるな。」
「え?」
私は驚いたけど、他の皆は頷いた。
「同感だな。」
「ああ、俺たちを最後にして力量を図ろうとしてるんだ。」
柊君と涼君が口々にそう言う。
「うまくいかなかったらどうなるんだろう?」
「分かんないけど、しばらく大きな舞台には上がれないだろうな。」
「そんな!」
今まで頑張って来たのに、振出しに戻っちゃうの?それって…。
「でも、そうならないように頑張ればいいんだよね?」
暗い雰囲気をぶち壊したのは桃君だった。皆で見ると、桃君は笑顔でいつものように笑って言った。
「だってそうでしょ?うまくいけばまたステージに立てる。ダメだったらまた一からやり直し。それって、今まで同じじゃん。」
そう言われてハッとする。そうか、今までと同じなんだ。
「そっか、そうだよね。怖がることはないんだよね。」
私がそう言うと、桃君は笑顔で頷いた。皆も同じように顔が明るくなる。
「そうか。今までと同じ、か。確かにそうかもな。」
「うん、そうだよね!さすが桃君。」
「小日向もたまにはいいこと言うんだな。」
「ちょ、それどういう意味、柊!」
そう言っていつもの皆に戻る。試されていると言われて不安に思ったけど、みんなと一緒なら大丈夫な気がした。
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