第2話 〜楽あれば苦あり〜

入学式まで何日か休みがある。北海道の雪は徐々に解け始めているのだが、ほぼ冬に近いような気もする。アスファルトが徐々に見えてきているのだが、やはり夜にはアイスバーンと化す。そこを踏むたびに滑って腰を打つ学生や、会社員もたくさんいるのだ。

 本年度私立紋灘もんだん高等学校に入学する長沼 ひらくは幼馴染の中村 芽生めむを家に招待して勉強会をしていた。部屋は殺風景で特にこれといった特徴のない部屋だ。机とテーブルとベッド、そのほかには何があるのか何も気にならないようなとてつもなく侘しい部屋である。

「いや~、まさか幼稚園から高校まで一緒になるとは思ってなかったね~。啓~」

 啓はノートに書かれた根号に包まれた数字を凝視する。

「あ、それは3√6だよ。ここは……」

 計算方法はこうだ、と事細かに説明し始める芽生。何ひとつわからないわけではなかったのだが、さすがに難関高校の宿題を攻略するのに無理がある。そういった意味では学習面で賢いのは芽生と言えるのかもしれない。整数、小数、分数などの四則計算をはじめとする中二までの数学の内容はまだ妥協できた。しかし正直、根号やら二次関数やら生きていく上では必要ないと啓は心の中で思う。一体将来、いつどこで何時何分、どのような用途で使うのかをリスト化してほしいと本気でほしいと思ったほどである。言ってしまえば今しか使わないのかもしれない。

「啓さぁ~、そんな頭でよく合格したね。苦しくなかったの?」

「ああ」

 ぶっちゃけ、受験勉強はうまくいったといえばうまくいったのだと自己分析した。あれほど猛勉強したのに落ちたとなれば涙も流せないほど悲しくなる。

「ところでさ、ずいぶん先になるけど啓はどの大学に行くの?」

 啓は少し黙り、ため息を漏らした後ゆっくりと言った。

「……教育専門の大学」

 北海道の教育専門大学は道内に三箇所にあり、長沼はその中でも最上級に入る札幌校を志望している。どれも、違う学校として独立しているがもとは同じ学校だった。

「じゃあ、勉強しないとダメでしょうよ」

「まあ、そうなんだけどね。なんせ、努力大嫌いだし、勉強は所詮俺の夢をかなえるための通過点でしかないから。そんな勉強にこだわってないんだ」

 今まで、努力をせずにここまで来た。勉強も、運動も何もかも努力せずに必要最低限のことをした。故に努力を。努力をする芽生に劣るのはそれが原因だ。ただ、何もしていないわけではないので、最下位には至らないというのが彼の現状。それでも宿題がわからないというのは言語道断である。

「啓〜。そんなんで間に合うの?」

「頑張って間に合わせるよ」

 自信のない声で断言して、二人は再び入学前の宿題を攻略していく。

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TRUST カガリ ナガマサ @Kagari_Nagamasa

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