第1話 〜念願〜
プルルルル、と薄暗い部屋の中で電子音が響く。視線を手前に持ってくと男が一人ボサボサの頭になって寝ていた。
「ったく誰だよ……。こんな朝っぱらから……」
時計は午前九時を指している。電話が鳴ってもおかしくはない時間だ。寝起きの目をごしごしとこすりながら男は電話の受話器を手に取った。
「もしもし、はい、清水ですけど」
適当に男ははい、はいと相槌を打つ。そして次の瞬間、彼は今までの眠気をどこかへ吹き飛ばしたかの様に、
「本当ですか?!」
昨年、とある教育・福祉系の大学をそこそこな成績で卒業した佐呂間 明彦(サロマ アキヒコ)。彼は昔から教師になりたいという願望を持ち、そのためにいろんなものを捨ててきた。だが、彼の抱く夢には致命的な欠陥があった。それは、『理由』がないことであった。言ってしまえば、確かに夢憧れ、抱いていたのだが、その夢はいったい、いつどこから湧いてきたのかそれすらわからないまま育ってしまった。最初は人を救いたいという気持ちで医者を選んでいたようなのだが、いつの間にか教師になりたいという夢へと進路を変えてしまっていた。
そして現在、教員採用試験の合格がとある私立高校から通知が来たのだ。先ほどの歓喜はそのためだろう。
だが、いざ受かったとなると束の間の歓喜、徐々にこの歓喜が、興奮が静まり返っていく。将来を担わせる身として十分に責任をもってこの教師という職務を全うしなければならない。祖の威圧、が緊張へと変換されて歓喜どころではなくなってきたのだ。
狭いワンルームのアパートの一室のカーテンを開け、窓を開ける。日差しが自分の顔を照らし少し温かい。風はいい感じに室内を疾走し、気持ちよく佐呂間の身体を撫でていく。
「晴れ、か……」
先ほどの電話では、来週の水曜日からオリエンテーションを行うから来るように。と念を押された。自分が業務につけるのはその翌週らしい。自分の教え子なんて、夢にまで見たものだから心の興奮が抑えられずにいた。だがそれは、徐々に打ち消され、だんだんとその勢いは消えていった。
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