漆 ちょっとだけ真面目なお話
ポータルの先には部屋があった。大きさは二十畳ぐらいだろうか?白を基調としたシンプルながらもどこか奥深さを感じる。真ん中にはテーブルと四脚の椅子、端の方には、給湯器やティーセットなどがある。一つだけある窓の先には、真っ赤な夕焼けが広がっていた。
「えーと……ここが?」
一応聞いておく。
「そう、冥界なのだ」
「嘘つけ!現世と変わらんぞ!そもそも何でこんなに簡素な部屋なんだよ!モデルルームじゃねぇんだぞ!?」
何というかこう……禍々しさが足りない。
「ま、まあとりあえず座るのだ。大切な話を聞きにきたのだろう?」
「……しゃーないか」
とりあえず椅子に腰掛ける。妙に座り心地が良いのはどうしてだよ。あぬびすと向かい合う形となった。
あぬびすが口を開く。
「これは話せば長くなるのだが……」
「じゃあ帰るわ」
「あっ、こ、こら待つのだ!」
あぬびすは慌てて立ち上がる。
「そもそもお主はもう帰れないのだ!」
気づけばポータルは既に閉じきっていた。どうやら話を聞くしかないらしい。どうして俺はこんなにも行き場を無くされるのか。
「さて、まずは一つ訊こう」
「ん」
「お主、霊を……いや、何て言うか、その、『死の理を越えたナニカ』を信じるか?」
「は?」
いやいやいやいや、お前。今更何言ってんだよ。
「津雲のあんな姿とかお前とか見た後で『信じません』なんて言えると思うか?」
「そうだろうな。やっぱりそう言うと思ったのだ」
(うぜぇ……何かうぜぇ……)
あぬびすは苦いを顔した俺に構わず続ける。
「私たちはそんなオバケの行き着く処、終わりにして始まりの場所、そう、『冥界』を管理しているのだ」
「ふーん……ん?私たち?」
コイツの他にまだいるのか?
「おっと、そういえばまだお主に言ってなかったのだ。今紹介するのだ。おーい、"けるべろす"――」
がちゃり。ドアが開いた(そんなとこにあったのか)。
『はーい、あぬびす様ー……って、あら、あなたは』
呼ばれて出てきたのは、藤色の長い髪をした女性だった。少なくともそう見える。
『はじめまして、私は"けるべろす"。あぬびす様にお仕えしております』
「ど、どうも、暗堂 黎次って言います」
『黎次さん、ですね。あなたの事は以前からあぬびす様から聞いておりました。「冥界の新しい管理者候補がいる」と。ご迷惑かもしれませんが、今後は宜しくお願い致します』
彼女は礼儀正しい落ち着いた物腰で一礼すると、あぬびすの側に控える。
「さて、改めて説明するのだ。さっきも言ったが、私とけるべろすでこの冥界を管理しているのだ」
「ち、ちょっと待ってくれ」
「ん?どうしたのだ?」
"けるべろす"とやらを指差して俺は言う。
「君、"けるべろす"なの?」
『私ですか?はい、"けるべろす"ですよ』
「あの"けるべろす"か?」
『はい、あの"けるべろす"です』
「歌を聞いたら?」
『どうしても眠たくなってしまいますね』
「そうか……」
おかしい。何で三つ首の地獄の番犬が女の人になってんだよ。俺の知る限りじゃケルベロスはギリシャ神話に出てくるヤツだからエジプトの神に仕えてるはずはないしそもそもこんなマントなんて羽織ってるのもおかしいしそもそもアヌビスがロリ声なのももう」
「だから声の事は言うなー!」
『あの……途中から声に出てましたよ……?』
またやっちまった。
「でも、ま、まあいいのだ。ちょうどその事を説明しようと思っていたのだ……」
どことなくションボリしている。そこまでコンプレックスか。
「……すまない」
こほん。と咳払いをして、
『で、では説明させていただきますね』
けるべろすが口を開く。
『まず黎次さん、霊的存在――平たく言えば、ですが――を信じますか?』
「いやいや、それはさっきも」
『はい、承知の上で聞いております。もちろん信じていますよね』
そう言って彼女はこちらを見つめる。そして口を開く。
『では、その霊的存在は、どのようなものだと思っていますか?』
「……どのような?」
俺は椅子にもたれていた体を起こした。
(オバケの見た目か、うーん)
少しの間思案して、思い付いたイメージを口にする。
「そりゃその、死装束に……天冠だったっけ?あの三角形の、を着けてこう……うらめしや~って感じで」
両手の指先を下に、手の甲を相手側に向けながら。けるべろすはなるほど、という風に頷く。
「……今の質問、何の意味が?」
『はい、それは「それはだな!」
あぬびすが食い気味に口を挟んできた。
「私がこんな成りになっている理由に直結するのだ!」
ばぁん、と両手を机に叩きつけ、やや興奮気味にこちらの方を見つめてくる。
『あぬびす様、落ち着いて下さい』
「はっ……すまないのだ」
たしなめられてションボリする様は、ヤツの見た目通り、犬そのものに見えた。
To be 魂tinued...
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