伍 突撃!隣の黒魔術!
ドアはギシギシと不気味な音を立てながら開いた。イメージ通りというか、そこは現代風であってほしかったというか、中は薄暗かった。歩ける程度には精神が回復してたから、暗闇の中の津雲を追った。
言わせてほしい。異性の家に訪問するなら、もっと魅力的なシチュエーションがよかった。
いくつかの角を曲がり(もう覚えてない)、
「ここだよ」
津雲がある部屋の前で立ち止まる。『Уυυкα』というプレートが見えることから、恐らく彼女の部屋だろう。もう一度言おう、もっと魅力的なのがよかった!
「……おじゃましまーす?」
一応礼儀正しく。やはりドアは軋む。
「うわぁ……」
中では皆が思い浮かべるような、『黒魔術』が行われていた。黒い布の掛かった祭壇には、火が点いたロウソクを乗せた燭台。壁には白い線で六芒星が書かれた、これまた黒い布が掛かっている。床には動物の頭蓋骨のような何かが規則的に並んでいて、刻印らしきものが確認できるものもある。極めつけは、部屋の中央にある、謎の液体が煮たっている、大きな甕だ。ちょうど魔女がかき混ぜるような。(そして何故かジャスミンティーっぽい匂いが部屋中に漂っている。)
「うわぁ……」
思わずため息が二度も漏れた。
「これがアタシの黒魔術よ」
これか。なるほど。今のうちに遺書を書こうか。
「大丈夫だって、失敗してもちょっと体の自由が利かなくなるだけだから」
それどう考えてもちょっとじゃ無いよね。ツッコミを入れる元気も無く、ただ茫然と立ち尽くす。
「あ、ちょっとお茶淹れてくるね。ジャスミンティーでも良い?」
ああ、これがきっと最期の晩餐だ。あまりにも寂しいが。
「……ああ。」
彼女は笑顔で続ける。
「あと、この部屋の物は絶対に動かさないこと。良いですね?」
最後の方は目が笑っていなかった。分かった、これは絶対にフリではない。もう一度言おう、これは絶対にフリではない。
「……はい」
「よし」
そう言って彼女は部屋を出る。
「さて……どうしよう」
改めて部屋を見渡してみる。特にこれといったものは……うん、これといったものしかない。一体どこで集めたのだろうか、少なくとも近くのホームセンターで買えるものではないだろう。特にこの甕なんかは。なんだこれ、俺の肩ぐらいまでの高さがあるぞ?
「しかし、一体何だコレ?」
俺は甕を覗き込む。中では深緑色の、ドロっとした液体がぐるぐると対流して……時折骨片のような名状し難い白い固形物も浮き沈みしている。ただ、その見た目とは裏腹に、匂いはジャスミンティーのようだ。
「……こいつがこの匂いの原因か」
地獄のスープの意外な一面に驚いていたら、『ガチャリ』ドアが開いた。そして、
「お待た……あら、何をしてるのかなー?」
「あ――」
津雲がお盆にティーポットを載せて、部屋に入ってきた。オーラを纏いつつ。あまりに突然だった。
「ダメだよーうふふフフフフ」
こちらに詰め寄ってくる。
先程の
「フフフフフフフフフ」
ヤバい、このままだとマジで死ぬ!
「逃げ――?!」
体が全く動かない。まるで金縛り、いや、きっとそれ以上だろう。
「フフハハハハハハハハハ」
彼女の手からお盆が落ちる。ポットが割れ、熱々の(恐らく)ジャスミンティーが彼女の足に掛かった。しかし、彼女は動じる様子も無い。そのまま両腕を、首を絞めるような格好に構える。
気付くと、俺の体は浮いていた。まるでクレーンゲームみたいに、甕の真上まで移動させられて、そして。
「えっ、ちょっと嘘だろ」
ドボン 。
To be 魂tinued...
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