参 n回目の苦行
「そういえば」
「はわっ?」
ここは保健室。諸事情により、俺を轢いた上に右手までもケガさせた養護教諭の大先生と、俺は対面している……この人が美人の女性じゃなければ、俺はきっと助走をつけた飛び膝蹴りを彼女の顔面に炸裂させていただろう。
それはそうと。
「まだあなたの名前、聞いてませんでしたね」
ミイラになった右手で先生を指さす。一連の悲劇のせいで名前を聞くのをすっかり忘れていた。
「はわっ、そういえば」
忘れてた!という風に彼女は両手を口元にあてがった。
「私は
何だか得意げな顔をしている。そして、じっとこちらを見つめてくる。自己紹介をしろってことか?
「あー、俺は暗堂 黎次です。よろしく?お願いします」
「こちらこそよろしく!これからは毎日でもお話しましょうね!」
「いや、毎日はちょっと」
そんなに怪我してたら体がもたない。
「あの、先生って天然ですよね?」
「はわ、なに言ってるの?養殖なわけないじゃーん?ピッチピチの天然モノだよー。暗堂君ってば面白!」
やっぱり天然じゃないか。
退屈な数学の授業を貴重な睡眠時間に無駄遣いしたところで、本日最後の授業が終わった。俺は帰宅部、さっさと帰って寝よう。たっぷり寝よう。1.5光年ぐらい。
光年は時間の単位じゃないけどな、なんてセルフツッコミをしながら、俺は廊下に出る。
「おーい、黎次くーん」
俺を呼び止める声がした……が、これは無視していい、というかむしろ無視すべき類のやつだ。俺の脳がそう告げている。
俺はあからさまに歩みを早める。
「だから帰っちゃダメだってば」
しかしまわりこまれてしまった!
ボブカットの頭をした彼女の名は
だが俺はコイツに絡まれてもロクなことがないのを知っている。そもそも今日遅刻したのも、コイツと日付が変わる少し前までソシャゲをやっていたせいというのもある。……まあ理由の大半はあの声なのだが。
とりあえずこの場を去りたい。
「いや、今日はちょっと」
「どうして?」
「外せない用事があってだな」
嘘だ。
「嘘だね?」
「……嘘だ。」
やっぱりダメか。コイツは変なところで洞察力が高い。曰く、『顔に出てるからすぐわかる』のだとか。
「だってすぐ分かるよ、さっさと帰ってたっぷり寝たい、って顔に出てたもん」
「へいへい、そうですか」
「それも1.5光年くらい」
「何でそこまで分かんだよ?!」
「さらにその上どこかでツッコミを期待してたし。『光年は時間の単位じゃない』なんて感じで」
「……お前ってやつは本当に恐ろしい子だよ……」
エスパーかよ。こえーよ。
「エスパーじゃないよ。顔に出てるんだって」
ツッコミ待ってる顔ってどんなだよ。
「……まあいい。」良くないが。「そんで、今日はどんな"活動"をするんだ?」
俺が彼女を邪険に扱う理由の7,8割、そして俺が彼女と長い時間一緒にいる理由のほぼ10割がこの"活動"のせいだ。
彼女は"活動"と称して色んなことをする、もとい俺に要求してくる。例えば図書館で調べものをしたり、川の土手で野良猫を探し回ったり、懸垂の限界に挑戦したりマグカップを頭突きで割ったり傘を剣に見立てて振り回したりそれこそ昨日のゲームだってそうだ!」
「声に出てるよ、顔どころか。」
「あっ」
……ともかく、思い返すとロクなことがない。今回はなにをさせられるのだろうか、後遺症の無いやつで頼む。
「今回はね――」
運命の瞬間。
「とりあえずアタシの家に来てくれるかな?」
いいともー……じゃなくて。
「えっ?」
to be 魂tinued…
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