八話 皆の一致

 俺は午後に部屋を借り、リベリア、五六、四十川、ナユタを招集した。無論、ギルドについての会議的なものをするためだ。


 だがここで一つ、問題があることに気づく。それは、リベリアの件だ。


 確か、リベリアとの戦いが終わった後に、タケミカヅチと会い、話をした。そのときに俺とリベリアは、ギルドからの脱退をしても良いと言われたはずだ。


 俺は仮の状態だとしても、リベリアは完全に所属している。だからそこのところや、これからのことをふまえて話すつもりでいるわけだ。


 午後の静かな空気の中、俺たちはテーブルも何もない部屋に、五人で円をつくるように座っている。


「なんで皆が集まっているのだ? 何か重大なことでもあったのか?」


 リベリアが心底不思議そうに質問してくる。


 まあ、今回の論点の中心にいる人物だ。それなりに状況は知っておいてもらわないといけない。他の奴らもだ。


「それは今から説明する。とりあえず、ナユタの自己紹介の方からがいいだろう。まあ、充分見知った存在ではあるがな。」


 ナユタは少し驚きつつも、その場に起立する。そしてそわそわと、はにかみながらも自己紹介を始めた。


「ど、どうも。ナユタです。皆と同じ異世界転送者で、職業は『精霊召喚士サモナー・スピリット』です。」


 軽い自己紹介だったが、まあこれでも充分だろう。ナユタが座るとすぐに、こちらへ視線が集まる。よくわからない微妙なプレッシャーだ。


 俺は一つ咳払いをし、本題へうつった。


「今日お前らを呼んだのは、ギルドの創設に関して聞いて欲しいことがあったからだ。」


「ギルド……ですか?」


「もうギルドに所属してるんじゃないの?」


 思った通りの質問が出てくる。


「俺たちはまだギルドには所属していない。皆は鑑定をしただけで、申請には立ち会っていないだろう?」


「あ、そういえば。」


 四十川が納得したように声を出す。五六は物わかりが良いからか、全く動じずにうなずいていた。


「ナユタがここに来たのは、俺とギルドを立ち上げたいかららしい。だが、信用できる奴がいない場所に仲間をおいていくほど、俺は腐ってない。だからお前達を呼んだんだ。」


 皆、真剣に俺の話を聞いている。ナユタも、俺の判断を受け入れてくれるようで、人一倍激しく頷いていた。


 だが、一人だけ不安そうな顔をしている奴がいる。そう、リベリアだ。


「大丈夫だ。リベリアもその中に入っているからな。」


 不安そうな顔から一転、今度は驚いた顔をしている。


「わ、私はギルドに入っているから、無理なのではないか?」


「大丈夫だ。ナユタ、詳しく話してくれるか?」


「任せといて!」


 ナユタは大きく頷いて、立ち上がった。そのまま右手を挙げ、ウェポンを展開し始めた。


 手の上に、球状に青いブロックが集まっていく。手をゆっくりと下げウェポンの名前を言う。


「『勇気の精霊コラッジョスピリト』。」


 瞬間、集まっていたブロックが一気にはじけ、こびとのような者が現れた。かなりお年を召しているような外見だ。


「これは、『ノーム』。土の精霊だよ。」


 皆圧巻、といった表情だ。ウェポンの展開くらいは自分たちも出来るはずなのに、なぜそんなに驚いているのかわからなかったが。


 五六が、気づいたように質問をする。


「それは、ギルドと何の関係があるんですか?」


「皆、鑑定をしたよね? 鑑定のスキルが習得できるのは、精霊召喚士サモナー・スピリットだけなんだ。」


 一同が理解したようにうなずく。


 四十川は何か心当たりがあったのか、『ああ!』と唸っていた。


「ギルドの創設に必要なのは、精霊召喚士サモナー・スピリットと、ギルドマスター。そして、この二つを一緒の人にしているギルドは、ここ韋駄天。ギルマスと精霊召喚士サモナー・スピリットを同じ人が担っていると特別なことが起こるんだ。それが、ギルドからの脱退なんだ。」


「だから、リベリアちゃんも韋駄天から脱退する事が出来るって訳か。なるほどなるほど。」


 リベリアは、まだよくわかっていないようだ。俺と四十川、そしてナユタの顔を何度も見て、不思議そうな顔をしている。


 ここは、しっかりとわかるように説明したいが、こいつにはちょっとばかし難しいかもしれないと思ったため、説明は省いた。


 だが、一言だけ。


「お前も一緒に来られるんだ。」


「そうなのか?」


「そうだ。」


 感心したようにうなずくリベリア。理解してくれたようで何よりだ。


 まあこれで、皆は無事納得してくれただろうか?


「じゃあ、質問だ。俺たちと、ギルドを一緒にやってくれるか?」


「もちろんだ!」


「当たり前です!」


「うん!」


 満場一致で決定だった。これから、また忙しくなるんだろうな。少し憂鬱ではあるが、今は少しだけ楽しみが勝っている。


 そんなことを考えていたが、今突然あることに気づいた。それは、申請がされていなかったことについて。


 一番怪しく、一番納得のいく者。フィンだ。あいつで間違いないだろう。


 おそらく、俺たちの保護のために仮の状態ではあるが、戦闘状態にする。そして、ウェポンの習得をさせて身の安全を自分で守れるようにする。


 俺としたことが、まんまとあいつの考えに動かされていたのか……。少しむかつく。


 だがそうなると、これからギルドの創設をすることだって、あいつの考え通りのはずだ。というよりは、そうさせるためにしか思えない。


 だとすると……。


「はぁ。……皆、メンバーがこれから増えると思うが、そこは気にしないでくれ。」


 すぐに、『どういうことですか?』とか、『だれだれ?』とかなんとか。まあ、俺が答えるはずがない。


 山田とユーリ、この二人が増えることになるだろう。


 フィンが、同じ場所から転送されてきた俺たちを引き離すようなことはしない。そして、ギルドの創設なんて話になったらなおさらだ。


 おそらく、ワイバーンの方にも手を回しているはずだ。申請はしないように、な。


 山田は良いとして。ユーリとまた巡り会うことになるとは……。あいつとは関わりたくないんだが。


 先ほどまで憂鬱に勝っていた楽しみは消え失せかかっていた。

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