七話 約束と決心

 目が覚めると同時に、さわやかな風と、小鳥の鳴く声が聞こえた。妙に気持ちの良い朝だ。


 眼に感じる軽い圧迫と、俺の体の各所を固めるように集まる四人に気づき、昨日のことを思い出した。


 ものすごく恥ずかしい。どんな顔をしてこいつらと、これからつきあえば良いんだ? 泣き疲れて皆に抱かれながら寝るとか、かっこわるすぎだろ……。


「む、起きてたのか。」


 四肢を固めている内の、右腕部分にあたるリベリアがゆっくりと起き上がった。


 目をこすり、まだ眠そうにしている。やはり、幼い感じだな。一つあくびをしたリベリアは、また俺の右腕を拘束する。上目遣いでこちらを見て、『ニカッ』と笑う。


 流石に、昨日のことがあったからか、すごく不安になる。昨日は泣いている内に寝てしまっていたみたいだから、何もしていないはず。いや、何か恥ずかしいことをしていたら……!


「もう少し寝かせてくれ、レージ。」


「……お、おう。」


 考え事をしている間に、笑顔だったはずの顔はトロンとした眠そうな顔になっていた。


 俺の返事を聞いて、嬉しそうにしながらまた力強く右腕を拘束しながら眠る。本当に、幼い。


 ふと、窓の方を見て呟く。


「ま、俺はあれがあった方が良かったのかもな。目標だって、見つかったんだし。」


「へぇ……。ぜひ僕に聞かせてもらいたいな。」


「うお……。起きてたのか。」


 左脚が軽い。目の前には、立てた膝を腕で抱き、こちらを見るナユタがいた。


 まだ、関係はそこまで深くないからか、昨日のことは他の奴らよりも怖い。


「ほら、教えてよ。」


 ほほえみながら催促するナユタ。前髪が横にたれる。


「あ、私も聞かないとですね。」


「私も私も!」


 次々と体が軽くなり、騒がしくなる。


 まあ、目標はこいつらも含まれることだし、言った方が良いか。……一人だけ寝てるが。


「それは……だな。その……。こんな世界だが、俺の事を少なからず信じてくれている奴がいるのなら、全力で助ける……だ。」


「……それはきれい事?」


 四十川が鋭い質問をしてくる。


 きれい事……。本心ではあるとは思うが、きれい事が入っているのだろうか? それとも本当に、弱い俺が心から思えていることなのだろうか? どっちなんだ?


 少し考えたが、答えは見つからなかった。だが、一つだけ言えることはある。


「……今はきれい事かもしれない。だけど、今回だけは絶対に、有言実行してみせるさ。自分を理解してくれる人がいて、信用してくれている人がいるっていうのは、感謝すべきで守らなきゃいけないことだと思うから……な。」


 少し驚いたように目を合わせる少女達。だが、すぐほほえむ。


 そして、全員が手を差し出す。右下からも同様に手が出ていた。


「これからよろしくね!」


「よろしくお願いします!」


「よろしくだよ!」


「よろしくだ!」


 皆、俺を信頼してくれている。皆、俺を好いてくれている。皆、俺と共にあろうとしてくれている。そんなことを考えると、目頭が熱くなってきた。


 それに気づき、とっさに顔を伏せる。涙を何とか耐えて、顔を上げ、俺も手を差し出した。


 次々と差し出した手に手が重ねられていく。


「あ! レージの上は私の特等席だぞ! ふふん、何せ私はレージの嫁なのだ――」


「非公認です!」


「な、なんでだ!?」


「あ、ちょ、乗るな! 痛い痛い痛いっ! 足っ! 踏んでるって!」


 俺の手は引っ張られ、右へ左へ動いていく。俺の体はもみくちゃにされて、なすすべはなかった。


 こんな平凡な日々が続くと良いな、なんて思ってしまったことはこいつらには内緒だ。


 しばらくして事も収まり、皆が自分の部屋へ戻った。


 俺は窓から外を眺め、のびをする。目の前に広がる壮大な自然は、とてもさわやかな気分にさせてくれた。


「さて、これから何をするか……だな!」


「そうだね!」


「うおっ! って、またお前か。いったいいつからそこに。」


 ナユタはすでに着替えていた。だが、今までの装備とは違うものだった。変わったと言っても、男物のプレートが女物になっただけのようだが。


「昨日はすまなかったね。」


「何のことだ?」


 ナユタは少し顔を伏せ、いかにも反省していますという感じだった。だが、俺は何のことを謝っているのか、わからなかった。


「いや、いつか話すよ。」


「……そうか。」


 もったいぶったナユタに少し違和感を感じたが、深くは詮索しないでおこうと思う。何せ、こっちは大きな弱みを握られているのだから。下手に動いたら、何をされるかわかったもんじゃない。


「で、どうしたんだ?」


「これからのことについて、なんだよね?」


「まあ、そうだが。」


 先ほどまで伏せられていた顔はすでに上がり、期待に目を輝かせてこちらを見つめるナユタ。


 言わんとしていることはわかっているのだが、どうしても実感が湧かない。ギルドの結成は、俺たちにどんなことを与えてくるのかわからない事も含めて。


 だが、目標が俺には出来た。だから、それに繋がることならやってみても良いんじゃないかと思う。


「……ギル――」


「そうだな! ま、お前の頼みなんだ。一肌脱いでみようじゃないか! 俺の初ミッションということで! ……なんちって。」


「……! うんっ!」


 輝いていた目が、さらに輝く。すでに、まぶしささえも感じられるほど満面の笑みだ。


 全く、俺の周りには喜怒哀楽の激しい奴らが多いな。

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