六話 弱さと否定
食事を済ませ、部屋に戻った。さて、これから何をするか……だな。
特に目標も掲げずに元の世界を飛び出て、何となくウェポン展開できるようになって、何となくピンチを乗り越えて、今度は新しいギルドの立ち上げ。
それに、ユーリや山田は音信不通、最近はフィンもこちらに来ていない。加えて、ギルドの重鎮たるタケミカヅチの裏切りとは……。
「ホントに、何がしたくてここにいるんだろうな……。誰か、教えてくんねーかなぁ……。」
独り言を、誰が答えてくれるわけでもない部屋の中で、寝返りをうちながら漏らす。
今、こんな状態の中でギルドを創設しても、何かが変わるわけじゃない。ましてや、生半可な気持ちのせいで危険なことが起こるかもしれない。かといって、いきなりこれを目標に! ……とは、いかないだろう。
何か、ないのだろうか。自分でもわからないが、何かを欲しているのを感じる。
「はぁ……。」
先ほどから、ずっと溜息ばかり出てくる。何を悩んでいるのか、なぜ悩んでいるのか。それすらもわからなくなってきそうだ。
――汝、誰がために世を征す……?――
「! ……誰だ?」
驚いて上体を起こす。
どこからともなく聞こえる声。何というか、聞き覚えがある声だ。年老いた老人……いや、それよりもしっかりしている。仙人という感じか?
――汝、誰がために世を征す……? 汝、
誰のために世界を治めるのか、なぜ世界を救おうとするのか……か。今、俺が考えていることと全く同じだ。
何で俺はここにいるのか、何で俺はこの世界を救おうとしているのか。たまたまここに来たからか? 自分が生き抜くためか? 帰るすべを探すためか? おそらく、そのどれでもないはず。そう、どれでもないはずなんだ。
すでに自分の命を投げ捨てるような行動は起こしているし、自ら望んでここに来た。帰ることなんか考えずに、世界を飛び出してきた。
なら、何なんだ? 何で俺は行動を起こすんだ? 目の前の者を救うためだけに動いているのか? 確かに、それが一番強いことかもしれない。だけど、これではないはずなんだ。何か、他にあるはずなんだ。
――解のない問いを持つ者は、やがて崩れる……。自らのあり方を知ることが出来ずに……。だというのに汝は、なぜ自ら崩れ落ちようとする……?――
「自分から崩れようとなんて、してねぇよ。……してねぇはずなんだよ。でも俺は何で、どうして、何がしたくてここにいるのかはわからねぇんだ。そもそも、俺みたいな名前までド平均の奴に、何を望むんだよ。」
自分の弱さを連ねてゆく。どんどんあふれてくる、むしゃくしゃとした気持ちに流されるように。
「そりゃ確かに、何か格好いいことが出来るかもしれないって、期待したかもしれない。だけど俺は何も出来てない。ほら、今だって自分の弱さをせき止めきれなくなって、弱気なことばっかり言ってる。何をしたら良いのか……教えてくれよ。」
俺は頭を垂れ、泣きそうな声で、汚く弱い部分をさらけ出し続ける。返ってこない、そして難しい問いと共に。
流石に、無理をしすぎたのだろう。誰かに、このむしゃくしゃした気持ちを投げつけたい。はき出したい。俺は弱いのに、強がってただけなんだ。
他の皆は強いさ。皆自分の役割を見つけて、その中でよりよい自分を見つけるために頑張ってるんだ。なのに俺は、リーダー気取って、振り回して、中味のないきれい事言って……。
「俺は、何をしたら……良いんだ……?」
頬に、涙の伝う感覚がした。ほら、やっぱり弱いんだ。俺なんかは、頑張っても泣くことしか出来ない。せめて追い詰められても強がっていられるくらいの、気概とプライドが欲しかった。
「……!」
うつむいた頭を包む、暖かさを感じた。誰かに抱き包まれている感覚だ。その暖かさに、なぜか涙があふれてきた。
何でだ? 何で泣いているんだ?
「少年……いや、レージ。お前は言ったではないか。私に生きる意味をやると。俺をいつでも殺しに来いと。お前がそんなでいたら、殺しに行きたくても、いけないであろう……!」
聞こえてくるのは聞き慣れたリベリアの声。ささやくようだが、問い掛けるように、揺さぶるように言葉をかけてくる。
すでに涙でぐしゃぐしゃになった顔に、さらに涙が伝う。
「あんなん……その場しのぎのきれい事だ……。俺が出来るのはそれくらいだけなんだよ……! いつもただのその場しのぎ、延命。全部、全部全部全部! 自分かわいさのことなんだよ!」
自分を否定することしか出来ない。こんなに優しく肯定してくれる人がいるのに、自虐的になる。
「そんなことないですよ、先輩。今は、全然その場しのぎじゃないです。これから皆の記憶にずっと残りそうなくらい汚くて、惨めで、かっこわるくて、弱いじゃないですか。」
もう一つの温度が、言葉と共に俺を包む。その暖かさに負けそうになったが、俺のへりくつさと弱さはさらに否定を続ける。
「だから、だから……! 弱いのにかっこつけてるような奴なんだよ! ホントは何も出来ないのに、出来るように見せてるだけなんだよ!」
否定、否定、否定。自分でも何でこんなに否定しているのかわからない。ひたすら自分を否定していく。
「私は……かっこつけてるレージ君も、弱いレージ君も好きだよ。しかも、前の世界では私を助けてくれたもん。」
「違う……。違うんだよ……。」
さらに増えるぬくもりと肯定の言葉。すでに返す言葉も見つからないのに、否定しようとする自分。
何で皆はそんなに俺を肯定するんだよ。かっこわるい俺を……!
「ほら、もうキミに逃げ場はない。キミが否定し続けるんだったら、僕たちは肯定し続ける。君が泣きたくなったら、いつでも胸を貸す。だって僕たちは、キミのことが――」
「「「言うなっ!」」」
とどめの言葉といきなり響く怒号に、驚きつつも力が抜ける。
俺に逃げ道はない……か。まさか、こんなに恐ろしい奴らと仲間になってたとは。
自然にほほえんでしまう。本当に、恐ろしい。
「しょうね……レージ。もう少しこのままでも良いか? ……? レージ?」
「んー、泣き疲れちゃったのかな?」
「まあ、しばらくはこのままでしょうね。」
「そうだね。でもまさか、僕のウェポンがこんなに効くとは思わなかったなあ。」
「凄いですよね、そのウェポン。」
小さく笑いあう声の中で、俺の意識はすでに温かな暗闇の中にあった。
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