四話 ナユタと目的
しばらく、よくわからないごたごたを続けていた。だがその中で、ナユタのことも少しずつわかってきた。
ギルドには所属しておらず、命がけで砂漠の向こうの街からやってきたこと。その理由は、許嫁である俺と会うためだということ。そして、異世界の住人であること。だが、俺たちのいた世界とは違う世界だということ。
色々している内に、日も傾いて暗くなっていた。今日は遅いため、ナユタには宿屋に帰ってもらい、俺たちも休むことになった。……はずだったのだが。
「なんでお前ら全員いるんだよっ!?」
この部屋は確実に俺の部屋だ。そう、まごうことなき俺の部屋。だというのに、今はどこぞの修学旅行生達が泊まっている、よく言えば賑やか、悪く言えば騒々しい談話室と化していた。
「あはは……はあ。ごめんね。ちょっとお話がしたかったんだけど、まさかこんなことになるとは思っていなかったんだよ。」
溜息と共に、困り顔で話すナユタ。おそらく、こいつは悪くないだろう。それに、二人で話したいことも色々あったしな。
問題は、その他の三人だ。
「な、何も言わずに新しいおなごと知り合うなど、言語道断! よって、今日は……その、わ、私と一緒に寝るのだ! 勿論、反論は認めん!」
何か勝手に決定された。別に、俺が何をしたってお前には関係ないはずだが? 行動をここまで制限されるのは流石にきついぞ。
「私は……まあ、そのですね。あ! 先輩が変なことをしでかさないようにと、いわば監視役ですから。気にしなくて結構ですよ。」
これは、確か転生の時の理由と同じだな。なぜそんなにも信用がないのだろうか? いや、裸を見ているのだから当たり前か。
なるほど。そういえばたしかに、俺は前科もちだったな。
「今まで、何で私は阻害されてたの!? 最近は全然お話しできてないのに……! とりあえず、今日はここを離れないからね!」
四十川は、なぜかご立腹だ。たまたま会えなかったりして話をしていなかったのは許して欲しいのだが。しかも、別に阻害していたわけではないし。
そんな感じで、俺は少し空気が読めるようになったので、ツッコミは全て心の中でするようになった。うんうん、流石俺。
「だからって、皆集合する意味はないだろ? 別に一人一人と、個別対応してやることだってできるんだから。」
「「「「一人一人!?」」」」
「それは本当か!? 本当の本当に、二人っきりでいられるのか!?」
凄いがっついてきたのはなぜだろうか。というか、なぜその考えがなかったのかわからないのだが……。
とりあえず人一倍興奮しているリベリアを落ち着かせるために、頭を二回、ポスンポスンとたたく。
「ああ、俺に二言はない。いや、場合によってはあるかもしれないが、今回は大丈夫だ。」
「絶対ですよ!?」
「絶対だよ!?」
四十川と五六が同時に言う。もう、なんだか怖くなってきたので適当になだめる。
まあ、これでナユタと二人になる口実ができたって訳だ。
「よし、じゃあ今日はナユタだ。明日以降の順番は、そっちの三人で決めておいてくれ。」
言葉を聞き終わるやいなや、一瞬で三人は出て行った。本当に、何がしたかったのか理解できない。
溜息をつき、ベッドに寝転がる。
「で、許嫁っていうのは何なんだ? 何かあるんだろ?」
「まあね。その前に、僕の目的と元いた世界のことを教えたいと思っているんだ。いいかな?」
少し、遠慮気味に言うナユタ。普段ならば、すぐに飛びつくような好条件なのだが、違和感があった。
俺に本当のことを知ってもらいたいということがあっての行動なのか、それとも俺を陥れる罠なのか。この世界での経験は、おそらく俺をさらに疑心暗鬼にさせている。信じてやりたいのだが、怪しいことには関わりたくないのだ。
俺は少し考える。だが徐々に、ナユタの顔が不安そうになるのがわかった。ここは一つ、信じてやることにするか……。
「別に良いぞ。」
言葉を発した直後に、ナユタの顔が安心したように緩んだところを見ると、やはり信じても良いような気がした。
「僕の目的は、新しいギルドの立ち上げなんだ。それに伴って、ガーディアンの保護を受けたいと思っている。何より、キミと一緒にギルドをしたいんだ。」
何とも楽しそうに話すナユタに、少し見とれてしまった。
だが、ギルドの立ち上げが目的だったとは。しかも、ガーディアンが転生、転移した人たちを保護していることを知っている。かなり本気なのだろう。
「まあ、そこは考えないこともない。だが、なんで俺の事を知っているんだ?」
俺が、ずっと腑に落ちないこと。
俺の事は世間一般的に知られているわけではない。その上、活動範囲なんて言ったら二つの街だけ。さらに、お互い異世界の住人で、それぞれ違う世界にいた。だというのに、なぜかナユタは俺の事を知っていたこと。
「それは……ね。信じてもらえるかわからないんだけど、夢で見たんだ。」
なるほど、正夢がここに来て関わりの原点になるとは。まあ、俺も正夢のことは知っているし、今日だって夢で見ただけで慌てていた。信じるには充分だろう。
「良いんじゃねえか? 別に、そういうのも。」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。」
ナユタがにこっと笑った。ナユタの笑顔は見たことなかったが、なんだか安心する笑顔だった。それを見るとほっとするような、そんな感じ。
「それで、元いた世界のことなんだけど――」
「いや、それは話さなくて良い。」
俺は言葉を遮って、断った。
ナユタは心底不思議そうに、きょとんとした顔をしている。
「どうしてだい?」
「俺は、過去はこれからの関係に必要ないと思う。過去を知って、同情したりしてしまうのがいやなんだ。皆平等に、皆等しい関係で接したい……みたいな?」
「……優しいんだね。レージ君は。」
何かに合点がいったように、そう呟くナユタ。まあ、理解してくれたようで何よりだ。
「じゃあ、許嫁についてだね。簡単に言えば、真っ赤な嘘って所だよ。関わりを持つための口実。でも君に会ってみて、正直それも良いかなって思った。」
「そう……か。まあ、好きにしてくれ。」
別に、好意を抱かれることは嫌な気がしないし、嘘をついていたということを話してくれる辺り、素直な子なのだろう。
「一つだけ、いいか?」
「うん、かまわないよ。」
「俺がお前に会う前、何かにぶつかったんだが、何か心当たりはあるか?」
ナユタは質問に対して、うーんと唸りながら上の方を向いた。何か思い返しているのだろう。しばらく沈黙が続いたが、何かを思い出したような動作をする。
「あのとき、キミはどこかに向かって急いでいたようだったけど、利己的な考えで結界を一時的に張ってしまったんだよ。けがをさせてしまっていたかな?」
「いや、大丈夫だ。電気の防壁もか?」
「電気の……防壁?」
どうやら知らないようだ。だとすると、あれは何だったのだろうか。誰かが五六を狙っていたりなどはしていないだろうか。危険がないと良いんだが。
「何かあったのかい?」
俺としたことが、どうも自分の世界に浸ってしまっていたようだ。ナユタの声で、現実に引き戻される。
「いや、何でもない。話は戻るが、ギルド創設はできるものなのか? 俺はもうギルドに所属しているぞ?」
「え? 何を言っているんだい? キミはギルドには所属していないよ。」
「……え?」
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