三章 新たな仲間と冒険記

   一話 混乱と確信

 さて、どうしたものか。いきなりだが、俺は今とてつもなくピンチな状況にある。その理由は俺にもわからない。今起きたばかり、のはずなんだが。


 そして、今までのとは全然比べものにならないほどにピンチだ。いつもなら、リベリアとか四十川とかその辺りだ。だが今日は、命が危ない。


 寝間着で起床したての俺の首には、二本の槍。確認出来るだけでも九つくらいの兜。おそらく騎士だろう。朝からこんな目覚め方をするとはな。全く、昨日といい今日といい、俺はどんだけツいてないんだ。昨日のセリフは死亡フラグ……いや、そうじゃないか。


「ちょっと、状況説明頼んで良いか?」


「む、起きたか若造。」


 いや、若造て。どこの人? ねえ、いつの時代の人? 俺の事若造って言う人、始めて見たよ。


「早く、状況説明を頼む。」


「誠に申し訳ないが、それはできん。」


 いやあ、どうもおかしいね。敵を夜襲するくらいだというのに、ここまでへりくだった言い方。誰の差し金だ?


 昨日のことから考えると、あり得るのは……。タケミカヅチかリベリアだな。タケミカヅチの場合だと、昨日見逃したのを良いことに襲った。リベリアの場合だと、殺しに来たって所か。はあ、面倒くさい。本当ならもう少し眠っていたかったんだが。


 人間に必要なのは、食事と睡眠! それを妨げる奴は絶対に許さん。


「黒き刀身は、誓約の証。この世の摂理すら覆す。神すらも屈服させる。その力、我が手に宿れ! 『卑怯者の一手メスキーナアイウート』!」


 俺は、オリジナルウェポンを展開し、拘束をすぐに解く。そして、騎士の一人にすぐさま斬りかかった。だがその攻撃は空を斬る。なんと、その騎士には実体が無かったのだ。


 いわゆる、亡霊ゴースト。それでも俺は屈しない。そう、俺は一人じゃないから!


「我が紅き双眸に誓い、汝に命ず。窮地を救い、形勢を覆せ。」


 詠唱を唱え、ナイフを切り下ろす。すると、瞬く間に亡霊ゴースト達は消えた。俺は、この危機から脱する。



 ――そして、俺は英雄となったのだ……!――



「ちょっと待ったああああああああっ! 誰だよそれ!? しかも最後めちゃくちゃじゃねえか!」


「そうか? うーむ、英雄になるのはなかなか難しいのだな。」


「朝起きてからそれを聞かせるお前は何だ? アホか?」


 さて、今までのは全部忘れてくれ。先ほどまでの意味のわからない物語は全て、リベリアによって作り出された幻想だ。


 俺は、昨日の疲労を癒やす為にと、少し早めに寝た。起きたのは、日が真上に昇った頃。体には少々痛みが残るものの、たいしたものではない。


 それよりも問題なのは、リベリアだ。目が覚めるやいなや変な話をし始め、長々と語っていた。しかもなぜか主人公は俺。何だ? お前は俺に、恥辱の中で死ねと言うのか?


 そして、なぜか外見がいつも通りになっている。姫カットの澄んだ黒髪。紅い目と、すっと通った鼻筋。もう、何が何だかわからないぞ。昨日のは夢だったのか?


「リベリア、一つ質問だ。俺がお前に言った言葉の中で、一番嬉しかったのは何だ?」


「無論、頭をなでてくれたことだろう。」


「今『言った言葉』っていったんだが!?」


「うああ、怒るな怒るな。冗談だ。そうだな……『俺がお前の生きる意味になってやるよっ……。キランッ』だろうな。」


 何でわざわざ似てもいないまねをするかな。そして、『キランッ』って何だ、『キランッ』って。顔が完全にナルシストだったぞ。そんなことを言うのはユーリだけだ。俺じゃない。


 まあともかく、昨日のは夢じゃないと。ああ、どうせなら夢だったら良かったのに。


「お前、何で見た目戻ってるんだ?」


「ああ、これのことか。こっちの姿が本当で、あっちの姿はオリジナルウェポンを展開したときの奴だ。展開してから1日くらいは直らないのが、難点だな……。」


 聞いたのは外見のことだけだが、勝手に不満まで語り始めるリベリア。そんなリベリアに気をとられていて気づかなかったのだが、俺は今とても大変な状況にあることを悟った。


「ここ……どこだよ!?」


 なんだか前にもこんな出来事があった気がする……。そういえば、あれもリベリアと一悶着あっての話だったか。それにしても、どうするか。目の前に広がるのは洞窟。今座っているのは草原。周りには、目の前の洞窟を除いて何も無い。一面に広がる緑は気味が悪くなるほど何もなかった。


「他の奴は?」


「何を言っている。我にはお前だけだぞ、少年。」


「どうした、ついに頭でも狂ったか?」


「フッフッフ……。我をなめ――」


「わかったわかった。」


 爆弾発言をしそうなリベリアの言葉を遮る。それにしても、どうしたものか。こいつリベリアじゃない。いや、正確にはリベリアの皮を被った何かってところか。


 気づいた理由はただ一つ、今までリベリアが『我』という一人称を使ったことがないこと。まあ、それだけで決めるのもどうかと思うが、十分なつきあいもあるしな。それだけで十分だ。


 そして、犯人は昨日の出来事を知っている人。さあ、誰なのだろうか。俺の事はそこまで有名じゃないから、おそらく知人の犯行。……全く見当が付かないな。


 うーんと、顎に手を当て考えていると、いつの間にか目の前にリベリアの顔があった。


「うおっ!」


「……レージ先輩。ずっと私は見てるのに、何で気づいてくれないんですか?」


 突然のことで、開いた口がふさがらない。目の前には、ぽろぽろと涙を流す五六がいたのだ。確かに似てはいるが、間違えるほど似ているわけではない。さっきまでは、確かにリベリアだった。……ということは、偽物のリベリアを演じていたのは五六だったのか?


「……五六。」


「もう良いんです。だって、私はあなたに気づいてもらえるまで、ずっとずっと待っていました。でも、もう良いんです。期待した私が悪かったんです。でも、後悔はしたくないんです。だから、ここで。レージ先輩、あなたのことが――」


 突然、今までの景色がブラックアウトした。五六の最後の言葉を聞く前に。何が起こっているのか、俺には理解できなかった。


 起きたら洞窟が前にある草原、そしてリベリアが五六、何かを言おうとした五六。でも、なぜか確信できることがあった。それは、五六の身が危ないこと。こんなにおかしな事が起こるのであれば、おそらく夢。


 どうしたらこの世界から脱出できるか……。


「ベタな奴でいってみるか。」


 独り言を呟き、頬に手を伸ばす。そして精一杯の力で、頬をつねった。痛みが全くない。その上、手に力が入ったような感覚もない。夢で自分の頬をつねるのは無理だったか。じゃあ何をしたら……。


「そうだ! 黒き刀身は、誓約の証。この世の摂理すら覆す。神すらも屈服させる。その力、我が手に宿れ! 『卑怯者の一手メスキーナアイウート』!」


 ウェポンだったら夢でも使えるだろう。そんな期待をしながら唱えた。期待に応えるように、右手には黒いダガーが構築される。これならいける!


「我が紅き双眸に誓い、汝に命ず。窮地を救い、形勢を覆せ!」


 次の瞬間、目の前には見慣れた天井が現れた。窓のほうを見ると、日はまだ昇りきらない辺り。それを確認すると同時にベッドから飛び降りる。


「待ってろよ、五六……!」

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