十六話 転送の真実

「くっ……。自爆とは品のない。ウェポンも本当に壊れてしまったではないか。」


 リグリアは、先ほどの爆破ではダメージをそれほど受けていないようだ。だが、ウェポンは壊れている。


 むくっと、軽く立ち上がって服のすすを払うリグリア。右腕に握られる折れたレイピアと、爆発した場所、俺たちを一瞥して、細剣を捨てた。そして、こちらに近付きながら語り始める。


「少年、伝承は知っているか? 伝承で殺されたのは私の祖父だ。」


 何!? 伝承がそんな最近に起きたことなのか!?


 俺は、驚きを隠しきれなかった。流石に、とても遠い昔のことだと思っていた伝承だ。それが最近起こったことで、さらに目の前にはその張本人……とはいかないが、その血を受け継ぐ者がいる。これは、俺でも驚く。


「今から話すのは、全て本当の話。」


 そう言って、途中で立ち止まった。少しうつむいて、また語り始める。


「伝承は、つい数十年前に起こったことなのだ。」


 とても嘘を言っているようには聞こえないし、見えない。先ほどのことだって、虚言のようではなかった。


「知っているか? 少年。今あるその体は、お前のものではないのだ。無論、転移、転生してきた者たち全て。」


「どういうこと……だ? 俺の体は俺の体じゃない? 意味がわからないぞ。」


「端的に言おう。お前の体は『ゼロの灰』で、できている。」


 調子を変えずに放たれた言葉は、衝撃的ものだった。俺の体が、ゼロの灰でできている。ゼロの体で俺の体が……。そりゃあ、転移なんて元々出来るはずが無いが、何でそんなもので……?


「転生門から人が来るたび、この世界のどこかのむくろが消えていく。そう、お前たちの体は死者の体。それがお前たちの意識に伴ったかたちに変化して、今お前がいるのだ。」


「意味……わかんねぇよ! 俺たちの体じゃない!? 意識だけがこっちの世界に来てるって言うのか!? じゃあ元の世界の俺たちは……!?」


 自分の中の『思い込み』が一気に砕け、崩れ落ちた気がした。そして、信じたくない事実に足から力が抜ける。目の前には深い緑の草が広がった。


「死者のむくろには、魂の持ち主の感情が残る。自分の中に、自分とは違う感情が入り交じってる状況だと、どうなるかわかるか? ……その感情が強ければ強いほど、死者に支配されていくのだ。」


 死者に支配……。された場合は、おそらく意識も全てなくなる。すなわち、死。もう一つの感情に心当たりがある俺は、そう長くもないのかもしれない。


 仲間を自分でもわからないほどに、助けたい。救いたい。ゼロの灰ということは、ゼロの感情がこれなのか。


「稀代の研究者が、『分岐した世界パラレルワールド』と言っていたかな。両方自分だが、片方に自分がいる。もう片方もまた、自分である。転移した場合、それが起きてしまうのだ。」


 分岐した世界パラレルワールド。そうか、転移していない自分もあっちにいるのか。たまたま俺はこっちにいるだけなんだ。じゃあ、俺はいなくても良いのか? 俺には存在する意味はない……のか?


「何してんのよ、あんた! 簡単に隙作ってるんじゃないわよ! パッパと終わらせるわよ!」


「ちっ。せっかく人が隙を作っていたというのに。これでは台無しだ。」


 ルルさんとリグリアの会話で我に返る。こんな時に何をしているんだ。これじゃあ、相手の思うつぼじゃないか。


 すぐに立ち上がりたいのだが、なぜか体に力が入らない。またアレが発病したようだ。疑問はすぐに解決したい病興味本位が。いや、今回は少し違うか。


「なあ、リグリア。二つ聞きたいことがある。一つめ、今のは本当のことか。二つめ、リベリアをお前から取り戻すことはできるか。答え次第では、本気が出せるかもしれない。」


 俺の体に力が入らない理由。これは自分の感情ではない気がする。となると、これはゼロの感情。ゼロの感情は仲間を助けること。なら、リベリアを助けることは必須条件。


 今までの話が嘘であったら、元も子もない。一種の賭けか……。


「本気……か。面白い。今までの話は全て本当のことだ。嘘、偽りは一切ない。そしてリベリアは、私を倒せば渡してやろう。もう用もないからな。」


「サンキュー。これで本気出せそうだわ……。」


 体に力を入れ、立ち上がった。ゼロに少し手助けしてもらってしまったかな? まあ、今はゼロも俺も一心同体。片方が片方を支配なんてさせないし、しない。これといった特徴のない弱虫には、最善策だろう。


 少し口角が上がってしまう。誰かと協力していると考えると、なんだか楽しい。そして頼もしい。


「リグリア、ウェポンを展開しろ。ルルさん、すいませんが帰って頂いて結構です! ここは僕が片を付けますから!」


「何言ってるの!? あなただけじゃ……。」


「大丈夫です! 僕は正々堂々と戦いたいだけですので。」


「でも……。」


 ルルさんも大人。こんな所に、自分の子供のような存在をおいていくことは出来無いだろう。でも、引いてくれないといけない。実力でこの人を、捩伏ねじふせなければいけないのだ。俺に渡された義務だから。


「では、タケミカヅチさんをぶん殴ってきて下さい! 僕の分を含めて二回! これで良いですか!?」


「そういう問題じゃ……! はあ、わかったわよ。諦めてやるわよ。ただし! 危険になったらすぐ戻っておいで! 絶対に、ね!」


「はい!」


 やっと、こちらの意図をくみ取ってくれたらしい。ルルさんは、何度もこちらを確認しながら走って行った。


 ここからは俺の戦い……いや、俺たちの戦いだ。せっかく、相手よりも多くの精神を有しているのだから、それを使わない手はないだろう。


 さあ、ここからは俺の力次第。久しぶりに、気合い入れていこうじゃないか!

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