十五話 破壊の爆発

 刹那、目の前でそれがはじかれたであろう音がする。恐怖で瞑っていた目を開けると、大きな盾で攻撃に耐えるフィンがいた。


「大丈夫か!? レージ!」


「お前、いつの間に!?」


「そんなことは良いから、ルルに回復してもらえ。」


 そう言われて、振り返る。後ろには、魔方陣を展開したルルさんがいた。すぐに、傷が元に戻る。


 初めて回復されて、その感覚に驚いていた。体の表面が何かに包まれている感覚。気持ち悪い感覚ではなく、むしろ心地よい。傷口には、青いブロックが集まってきて治していった。感覚だけの痛みも引いていく。


「空気が変だと思ってきてみたら、何なのその様は!? それでもあの化け物を倒した人!?」


 これは、何も言い返すことが出来無い。まあ、そんなことは良いんだ。まずはこの状況を打破しなくちゃならない。とりあえず丸腰じゃ何もできないな。


正式なイカサマトルッチウフィチャーレ! ……あれ?」


 ウェポンが展開されない。何でだ? 失敗してしまったのか? ……あ、もしかして折れたのが原因か? もし具現化したものが折れたら、展開が出来なくなるのかもしれない。


 でもこれじゃあ、みんなを助けることなんてできやしない。どうする!?


「あんたのウェポンはそれだけじゃないでしょ!?」


 ルルさんにそう言われ、気づく。そうだ、俺にはもう一つウェポンがあるんだ。オリジナルよりも心に強く刻まれたものが。


無のナイフニエンテコルテッロ!」


 今回はしっかりと展開されて、少しほっとする。それも束の間、フィンがはじき飛ばされた。レイピアのように細身な剣。どこからあんな威力がでるんだ。そう驚きつつも、ナイフを構える。


「そんなちんけなもので、どうやって私を倒すつもりだ? 少年。」


「うっせ、お前に比べたらまだ良い方だ。それに、そんな油断してて良いのか? こっちから行かせてもらうぞ。」


「ほう……、ご託は得意なようだな。ならば早くかかってこい。」


 額に青筋を立てて答えるリグリア。まさか、こんな安い挑発にのるとはな。案外チョロいらしい。


「じゃあ遠慮なく行かせてもう。影歩法カゲノホホウ!」


 叫んだ直後に視界に写ったのは、こちらに向けてレイピアを突き立てるリグリア。すんでの所で受け流し、距離を置く。


 今、影歩法カゲノホホウが完全に読まれていた。どういうことだ? まさか同じスキルを持っているわけでもあるまいし。


「何が起きたかわからない、といった表情だな。特別に教えてやろう。リベリアは私の傀儡。つまり私と一心同体。その技は知っているのだよ、少年。」


「それじゃあ、俺のウェポンを知っているはずがないだろ。知ってるのは、ルルさんとタケミカヅチさんだけだ。」


 ルルさんは俺たちに味方してくれている。ならばどうして?


 あのとき一緒にいたのは確か……。


「……! もしかして、タケミカヅチもグルだったのか!?」


「流石少年、勘がさえているな。まあ、知ったところで私に不利なことなど一つもないがな。」


 自分が絶対的有利に立っていて、自信満々な奴ほどタチの悪いものはない。自信過剰で勢いがつく。その反対に、不利な方はこれをわかっていたとしても勢いはそがれてしまう。俺もその不利な状況の一人だ。


 有効な手がないかを模索している時間はない。かといって考えずに突っ込んでも、今度は攻撃を受け流せるかもわからない。


 そうこう考えていると、いつの間にかフィンが近くまで来ていた。リグリアの背後にいる。


「おうおう、俺を忘れないでくれよ。これでもギルドマスター。自分を犠牲にするくらいの覚悟はもってんだ。」


「今更貴様に何ができると? 私のウェポンでも破壊する気か?」


 半身になって、フィンのほうに嘲笑しながら言う。流石に警戒は解いてくれないか。フィンは顎髭をこすり、胡散臭く笑った。


「じゃあ、そうさせてもらうかね……。」


「……! はったりにしてはずいぶんと自信が感じられるな。」


 こちらへの警戒はゼロになったのか、それとも俺は眼中にないのか。どちらにせよ、フィンの未知数の能力に警戒し始めたな。俺も知らないが、多分凄いものなのだろう。


「では早速、『仇討ちの壁ヴェンデッタムーロ』。」


「させないっ!」


 紅く光り始めたフィンの盾を、リグリアの碧く光る細剣が穿つ。ガギンッ、という鈍い音がしたが貫かれてはいなかった。


 レイピアでひたすら斬りつけ、突き続けるリグリア。だが、フィンは全く動じない。これはウェポンの特性なのだろうか? でも、これではウェポンを破壊することなど到底できはしない。どうする気だ?


「……、そろそろかな? 仇討ちの壁ヴェンデッタムーロ爆破エスプロジオーネ!」


「っ! 何だとっ!?」


 フィンが呟いた途端、リグリアの動きが止まる。驚いた様子から見て、拘束されているようだ。なぜかはわからないが、とても心がざわつく。自分でもわからない。まるでリベリアが悲痛な叫び声を上げていたときのように……。


「……! やめろっ! フィン!」


「へっ、もう遅いぜあんちゃん。」


 フィンの考えと、ウェポンを読み取ったときにはもう遅かった。すぐに、鼓膜を大きく揺らす爆音が届き、目の前には激しい爆発によって起きた黒煙が上がる。


 そう、フィンの考えたことは『自爆』だ。ただの自爆じゃないところがまたフィンらしいが。


 爆発の衝撃で双方向に、煙をまとった物体が飛んでいく。それを確認したときには、もう走り出していた。ぼろぼろになったフィンに駆け寄る。腕は盾もろとも吹き飛ばされたのか、肘辺りで青いブロックの漂う断面となっていた。


「後はお前に任せたからな、レージ。お前のことだから聞きたいことがたっぷりとあるんだろうが、それはお前が無事に帰ってきてからだ。リグリアを倒せ、絶対に。」


「はぁ……。いくら死にはしないからって、痛みはあるんだ。無茶するんじゃねえよ。まあ、ありがとな。この犠牲、無駄にはしない。」


「おいおい、俺は死んでないからな……。っと、そろそろ帰るみたいだな。リベリアも助けてこいよ。」


「おう。」


 フィンは、フッと笑ってから青いブロックに変わり、霧散した。もう犠牲は払えない。


 やることは二つ! リグリアを倒してリベリアを取り戻す! あとタケミカヅチをぶん殴る! それだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る