十七話 推測とスキル

「始める前に、もう一つ質問だ。オリジナルウェポンが何か知っているか? お前は、色々と知っているみたいだし。」


「では交換条件を出させてもらう。ゼロの感情には気づいていたか?」


 まあ、交換条件にしては安い方だろう。俺は核心に触れようとしているわけだからな。しかも、答え次第で俺に得のあることだし。答えることに問題はないだろう、多分。


「ああ、お前の話を聞いて理解した。」


「ほう、それならば楽しめそうだ。」


「どういうことだ?」


 なんだか意味深な言葉を呟いたのに、反応してしまう。リグリアは、にやりと不敵な笑みを浮かべた。


「それは別に良いだろう。それよりも、質問の回答をしようではないか。そちらの世界の人々が皆、オリジナルウェポンを持っている理由は、精神が二つ存在するからだ。」


 二つ精神が存在することに何の意味が? しかも、それだと貴族も二つの精神があることになる。普通の人間に二つの精神が入っていることなんて、そうそうないだろ?


 そんな疑問で首をかしげて唸っている俺を尻目に、リグリアは話を続ける。


「二つ精神を持つことは、オリジナルウェポンを使う上で大切なことだ。自分のウェポンが、自分の記憶。オリジナルウェポンが、もう一つの記憶と自分の記憶を、紡いでできたものだ。貴族も、その例には漏れない。貴族は一世、二世のように、どんどん続いていく。まあ、用はもう一つの記憶とリンクすることでできる、ということだ。これで満足か? 少年。」


「んー、まあ文句は言えないだろう。」


 もう一つの記憶とリンクする、か。ゼロの灰でできているというのは信じがたい。なら、ゼロとリンクした理由は……ダウトか? 他に接点は見つからなさそうだし。とはいえ、これで疑問が解決したわけだ。


 俺の疑問、それは『オリジナルウェポンの破壊』だ。さっき、俺のウェポンは壊れた。俺も、最初は荒く使いすぎたせいだと思っていたが、それは違う。オリジナルウェポンは、もう一つの記憶とリンクするものだ。ならば、普通のウェポンよりも先に、簡単に壊れるはずがないだろう?


 例えば、一本の糸をちぎるのと、二本の糸を結ったものをちぎるのとじゃ、勝手が違う。確実に後者のほうが丈夫だ。そうだろ? これとウェポンは同じ原理だろう。


 では、なんで壊れたのか。これはあくまで推測だが、壊れるのは必然なのだろう。先ほどもいったが、もう一つの記憶とリンクしてできるウェポンが、オリジナルのほう。


 この場合、初対面の人と、最初から心が繋がっていることになる。そんなことはあり得ない。ならば、俺が使っていたものは仮初めのウェポン。本来のウェポンは、もう一つの記憶と本当にリンクした場合にのみ発生するのだろう。そしてそれは、とても強いものになる。


 だが、もしこの原理が本当にあるのならば、リグリアもこれを行うことで強いウェポンを手にすることができる。どちらが先かで、勝負が決まるのだ。


 そんな感じで、ひとしきり自問自答を繰り返した。ふう、と溜息をつく。


「これでも、ウェポンを展開するインターバルを与えたつもりなんだけどな……。早くしてくれ。」


「卑怯者ではありたくないからな。そちらから展開して良いぞ。」


「余裕なのか、慎重なのか……。まあいい、無のナイフニエンテコルテッロ!」


 さっき投げ捨ててしまったが、特に問題はなかったようだ。嫌でも慣れてきた、この感覚。いつもよりも重く感じたのは、俺の記憶が新しく追加されたからだろうか。


 余裕の笑みを浮かべたリグリアも、ウェポンを展開する。


無のナイフニエンテコルテッロ。」


 俺と同じウェポンを展開した。ただ、俺と違う点は左手に展開されたこと。利き手とかがあるようだな。


「……ってお前、さっき俺のウェポンに『ちんけ』って言ったはずだよな。お前も同じウェポンじゃねえか!」


「はて、そんなこと言ったかな?」


 場違いとわかっていても、突っ込んでしまう。もう、これをやめるのは無理なのか? 早く普通の人に会いたい。突っ込みを入れないでいい人に会いたい……。


 まあ、それはおいといて。同じウェポンで戦う。そして普通のウェポン。なかなか面白い勝負になるかもな。


「じゃあ、いくぜ。これは『お前の記憶リコルド』と『俺の記憶リコルド』の戦いだ! どっちが強いかここで決めようじゃないか……!」


 柄にもなく、かっこつけて啖呵たんかを切る。一つ黒歴史が増えたことに、今はかまってられない。そろそろ、あっちもやる気らしいしな。


「ほう、なかなか愉しいことを言ってくれるな。どこからでもかかってこい。」


「お言葉に甘えて……! 影歩法カゲノホホウ!」


「見えているっ!」


 このスキルは、すでにばれている。ばれていることを承知で使ったのには、訳があった。このスキルのレベルアップだ。前聞いた話だが、スキルも強くなっていくらしい。俺はそれに賭ける。


 案の定、すぐに猛烈な反撃が来た。右上辺りから振り下ろされた斬撃を、リグリアの脇腹辺りに潜るように躱す。だが、そううまくはいかないようで、次はすぐに斬り返しが俺を襲う。


 ギリギリで躱したものの、左腕にかすったようだ。青い斬撃痕がある。少々痛みはあるが、たいしたものではない。すぐに体制を立て直し、今度は真正面から斬りかかる。


 だが、剣術を習っているわけでもないので、一撃一撃を丁寧に受け流された。このままではらちがあかない。何かいい手はないのか? オリジナルウェポンを展開できれば、一番早いのだが……。今それは、最善策ではないだろう。


 スキルのレベルだって、いつ上がるかはわからない。剣術で勝つことも出来無い。大きな痛手を与えられなくても、少し体勢を崩せるものは……。


 考えることに集中しすぎたため、剣を誤った方向に切り上げてしまった。やばい……!


「戦っている間に、考え事をするのは無礼だぞ、少年。」


 追撃は来なかった。


 そうだ……! リグリアは卑怯者が嫌いなんだ。だから、形式張った戦いをしようとしている。それなら、正攻法で勝てるわけがない。ここで、あの作戦がいかせるとはな……!


「すまなかった。今度は気をつける。次はそっちから来てくれ。」


「では、遠慮なくいかせてもらうぞ!」


 体勢を立て直すやいなや、すぐに斬りかかってきた。おれは、一撃ずつしっかり躱し、受け流し、耐え続ける。


 ガキンッ! カシュンッ! そんな金属がぶつかる音を聞きながら、ひたすら耐える。あいつに隙がでるまで。


「くっ……! 流石にきついか。」


 思わず言葉に出してしまうほど、凄い連撃だった。全ての斬撃を、丁寧に躱しているつもりでも、体にはどんどん斬り傷ができていく。


 だが、そろそろかな? 充分ダメージは食らっているんだ。一か八かの賭けに出よう。賭けが出来無いほど、廃れた根性にはなっていないんだ!


「『正当防衛オーバーキル』!」


「なにっ!?」

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