十三話 リベリアの異変
俺と少女のにらみ合い。どちらも一歩も引かない。にじり寄る少女と、それと全く同じ速度、距離で後ろへ下がる俺。二人の間は、常にイコールの状態だ。全く変わることはない。
さて、なぜこんな状況になったかを説明しようじゃないか。先ほど俺は、リベリアの無茶ぶりを受けたが、全くコツがつかめなかった。そこで一応聞いてみたのだが、案の定良い回答は返ってこなかった。
少し頭にきた俺は、リベリアの名前呼びをやめるという、さりげない嫌がらせを始める。のだが、普通はそんなもの気づかないはず。それがなんと、奴は一発で気づいたのだ。
で、今に至る。一気に飛ばしたように聞こえたかもしれないが、『気づく』から『にじり寄る』までの時間は三秒ほどだ。……要は俺にもわからない!
「なあ、なんでお前近付いてくるんだ?」
「では、なぜ少年は逃げるのだ?」
「……身の危険を感じたからに決まっているだろう。」
「私も同じだ。」
「まて、それはおかしい。身の危険を感じる必要がどこにある。」
「……くっくっく、『全ては神のみぞ知る』だぞ、少年……!」
なぜか自信満々で、あおるように言ってくるリベリア。こいつ、名前で呼ぶのやめられたショックで、中二病発症したのか? どっちにしろこの状況はやばい。本能がそう叫び狂っている、気がする。
それにしてもあの手の構えは、確実に何かやってくる。おそらく『くすぐり攻撃』か。そうなるとかなりピンチだな。なんてったって俺は、あの手の攻撃に滅法弱い。
学生時代(今も一応)、ユーリに部室でくすぐられて悶絶しているところに、顧問と部活の奴らが一斉に入ってくるという事件が起きた。そう、俺は人生で一番の痴態を晒したのだ。だから、あれは呪いの構え。俺にとっては恐怖以外の何物でも無いのだ。
「リ、リベリア。ちょっと落ち着いて話でもしようじゃないか。」
「少年に弁解の余地など無い! 何せ、二回目の犯行だからな。この罪、万死に値する。」
「ちょ、待てって、俺が悪かったから許してくれ! ほら、この通りだ!」
俺は『秘技・高速土下座』を使って、精一杯の謝罪の意を示した。沈黙の時間が続く中、自分の心臓の音だけが聞こえる。様子を見る為に顔を上げようとしたとき、サクッと草を踏む音がした。覚悟を決め、目を瞑る。
自分のものではない手が耳に触れ、思わず驚いてしまった。速くなる胸の鼓動を感じながら、顔を上げる。目の前にはにんまりとした気持ち悪い笑みを浮かべ、こちらを見つめる胡散臭い奴がいた。反射的にその顔へ膝蹴りを入れる。
やばいな俺、フィンにアレルギー反応起こしてる。と思ってしまったのはおいておこう。
「なんで、てめえが出てくるんだボケエエエエ! ちょっと期待した俺が馬鹿だったよ! 俺の純情を返しやがれ!」
「少年……! 私に期待してくれていたのか? 嬉しいことこの上ないぞ!」
「うっ……ほっとけ。」
「少年はうぶだな~。フフフ……。」
「名前で呼ぶのやめるぞ。」
「ええ!? ごめんなさいい!」
俺ここに何しに来たんだっけ。……ああそうだ、訓練しに来たんだった。
「って、あいつはどこ行ったんだよ。マジでどういう身体能力してるんだか。」
えと、確か詠唱破棄だったか? 何か違うものが集まってきている感じだったな。となると、記憶の思い出し方が違うのか。
もっと
「なあ、もう一回詠唱破棄見せてくれよ。」
「ああ、いいぞ!」
そう言って、おもむろに右手を挙げるリベリア。先ほどよりも速くウェポンが形成された。リベリアも、少しは教える為に考慮してくれていたらしい。
「うーん、コツ。コツ、コツ、コツ? んー……あ! 私は誰かを守りたいと、強く考えた時に出来たな。それがコツになると思うぞ。」
「誰かを守りたい、か。」
おそらくそれは、リベリアにとって重要なこと。じゃあ俺にとって重要なことは? 何が一番したい? 何か、俺が一番大切にしたいことはないのか? 必死で自分に問い掛ける。
うーんと、どれくらい唸っていたか、ついにそれらしきものを見つけた。
「よし、やってみるぞ。」
「がんばれ、少年!」
目を瞑って、右手に神経を集中させる。大きく深呼吸して、準備を整えた。そして大切にしたいことを強く考える。
――俺は、みんなとずっと笑いあいたい!――
右手に、確かに感覚があった。すぐに右手を見る。リベリアの時と同じように、色とりどりの光が集まってきていた。そして完成する。ウェポンの名前を呼んだときと同じ、全く同じかたちのウェポンが出来ていた。
「よっしゃああああああ!」
思わず叫ぶ。叫んで、うぬぼれて、また叫ぶ。ちょっと、この短時間でのどがつぶれそうになった。ひとしきり叫び終え、気分的にもすっきりしたところでリベリアを見る。驚愕、そんな言葉が似合う顔をしていた。
「……おーい、どうしたんだ?」
「少年、何で私と同じウェポンなのだ? なんで、少年が?」
「あ……。いや、でも、それは記憶が記憶だからしょうがないだろ。」
「……ない。」
「え?」
「しょうがなくない! レージが、私と同じような過去を持っていてはいけないっ!」
いきなり叫んだ。しかも俺をレージと呼んで。彼女の顔は、おびえているような感じがした。二、三歩後ろに倒れそうになりながら、こちらを見続けるリベリア。そして、何かを悟ったかのようにいきなりうずくまり、耳をふさぐようなかたちになった。
「ううう、ああああああっ!」
悲痛な叫び声を上げ、胸の辺りを強く握るリベリア。苦しそうなうめき声上げて、必死にもがいていた。
「本当にどうしたんだお前!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます