それぞれの特訓 其の『四十川』

『四十川』 勇気の決断

 ……? ここは? そこにいるのは、レージ君? かすんでよく見えないよ。何だか、赤いものがいっぱい……!


「きゃああああああっ! はあ、はあ、はあ。」


 今のは、夢? ここは私の部屋で今は朝。うん、状況の理解が出来るから、大丈夫だね。でも、レージ君が……殺された。真っ黒で顔もわからない何かに。


「ううん、何もないよ、きっと。疲れてるだけだよ。」


 自分しかいないのに、まるで誰かに言い訳するように喋る。ずっと前からそう。どこかで自分を押さえ込んでいる。ウェポンが『我慢レズィステレ』なのも、何だか納得しちゃうくらいに。


 本当はみんなの前でももっと、もっと自分を出したい。わかってもらいたいけど……でもやっぱり出来無い。本当のことを言えない。みんなが想像しているような明るい人じゃない。ネガティブで本当はもっと根暗なのに。


「うじうじしてても仕方ないよ! ほら訓練行かなきゃ!」


 挙げ句はこうやって、自分にまで嘘の自分で励ましてる。本当に自分が情けない。何でみんなはあんなに明るく、本音で話せるんだろう。私にはわからないや。……嘘の自分でも言っていることは正論、早く特訓に行かなきゃいけないね。


 タケミカヅチさんに呼ばれたのは、鑑定の間。目的は知っての通り、スキルの鑑定。彼はウェポンを習得してからでないと、スキルは鑑定できないと言っていた。


 だけど、私はこの空間が苦手。何だか本当の自分を見透かされている感じで、不安というか、気持ちが悪いというか。


「……しっかりしろ! 自分っ!」


 両頬をやや強めにたたき、気合いを入れる。ゆっくり深呼吸をしてから、ドアノブに手を掛けた。その瞬間肩を誰かにたたかれる。


「きゃっ!」


 思わず短い悲鳴が漏れる。何事かと思って後ろを見ると、タケミカヅチさんがいた。


「おっと、驚かせてしまったようだね。ごめん。」


「あ……いえ、全然。」


 何か知らないけど気まずい雰囲気になってしまった。タケミカヅチさんは無言で、鑑定の間に入っていく。私もそれに続いて入った。


 机を挟んで二人っきり。私は意外と人見知りだから、まだこの人になれていない。当然、目を合わせることなんか出来無い。


 その静かな、気持ち悪い空気の中鑑定が始まる。でも、一度申請の為の鑑定をしたからか、質問は返答するのが難しくなっていた。


「君の想い人は?」


「えっ! いや、あ、えと、その……。」


「大事なことだからしっかり答えてくれ。誰にも言ったりすることはないしね。」


 タケミカヅチさんはそう言って、フフっと優しくほほえみかけてくれる。でも、私は……あの人しか信用できないから。私を助けてくれた、大事な大事な幼馴染み。そして私の想い人……。あの人のことを考えると、自分でもわかるくらい顔が真っ赤になって、苦しくなって、自分が自分じゃないみたいで。『恋』しているからかもしれない。


「……くんです。」


「そうか、ありがとう。」


 うう、恥ずかしい。まさか、本人以外にこれを言うことになるなんて。心臓がバクバクして、もうその音しか聞こえないよ。唯一、本当の自分だってわかることを、それを告白したんだから当たり前か。


 そんなこんなで鑑定が終わった。タケミカヅチさんがいきなりすっと顔を上げたせいで、目が合ってしまう。すぐに視線を落とした。


「ミルくん、君のスキルは……ない。」


「えっ!?」


 驚いて顔を上げてしまった。でも今はそんなことは良い。


 スキルが無いってどういうこと? それじゃウェポンが使えないよ。みんなの足手まといになっちゃう。ネガティブな考えが、一気に脳を埋めていく。


「まあ、そう気を落とさないで。『今のところは』っていうだけだから。」


「……というと?」


「君のスキルは珍しいことに、オリジナルウェポンがスキル化するものらしい。だから、オリジナルウェポンを習得しないといけないんだ。でも、それがやっかいでね。ある特別な状況でしか、展開できない場合が多いんだよ。訓練をしたらいつでも使えるようにはなるけど、それも何年かかるか……。」


「……私は役立たずですか?」


 自分でも何でこれを言葉にしたのかわからない。とても答えにくい質問。自分がされたら黙り込んでしまうような質問。


 タケミカヅチさんはすぐに口を開いた。


「見方によればね。」


 まさかそんなに直球で来るとは思ってもいなかったので、うつむきかけていた顔を勢いよく上げてしまう。


「そんなに悲しい顔をしないで。」


「でも!」


「君が望むなら、術はある。」


 私の言葉を遮るように、言った。私が望むなら。望まないわけがない。だけど、だけど声が出ない。その原因はとっくにわかっている。勇気が無いから。でも今ここで言わなかったら、一生後悔する気がする。


 意を決して、固まった声帯を動かす。


「私は、みんなの役にたちたいですっ!」

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