十一話 二人のウェポン
「はあ、はあ、はあ、はあ……。」
体中から汗が流れ、呼吸が整わない。久しぶりに、こんなに全力で走ったな。
膝に手をついてうなだれながら、必死で息を整える。まあまあ収まった頃に、いきなり背中に痛みが走った。
「何してんだ? お前。」
「はあ……お前か、驚かすなよ。」
「お前か、ってなんだよ。」
「ほっとけ。」
背中には、パンッという心地よい音と共に痛みが走ったので、おそらく平手打ちでもしたのだろう。それにしても、こんなに早く帰ってくるとは思わなかった。半日もかからず行き来が出来るとはいえ、帰ってくるのが早すぎるんじゃないのか? フィンよ。しかも丁度特訓が始まるときになんて……、狙ったな?
「これから特訓だから、あっち行ってろ。」
フィンに背を向けて、追い払うような動作をして顔を上げた。目の前に広がるのは何もない草原。清々しいほどに何もない。いや、後ろに町があるが、この視野の中での話だ。わざわざ町の外に来てまでする特訓って、何か嫌な予感がするぞ。
「レージ君? わあ、レージ君だ! 凄い凄い! かっこいいね!」
後ろから、聞き覚えのある快活な声が聞こえる。四十川だろう。振り返るといつもの制服姿ではない、見慣れない服に身を包んだ四十川がいた。後ろには五六もいる。
「おお、お前らもすげえな。」
少々気持ちがこもっていないように聞こえてしまったかもしれないが、意外と驚いている。
手を振りながらこちらに歩いてくる四十川。第一印象は……そうだな、『大胆』だろう。
肩には金属のガード、胸にも守るように金属があるが、それ以外に防御性能があるようなものは見当たらない。短い革製のようなズボンに、首に掛けられた五つほどの勾玉がついた首飾り。ズボンの少し下にはチョーカーのようなものが巻いてある。靴は……この世界にしてはお洒落な方かな? という感じの革のブーツ。それ以外は、THE『肌』だ。よくそんな装備で良いと考えたもんだよ。
恥ずかしそうに顔をうつむかせながら、隠れて近付いてくる五六。うん、『真面目』だなという感想が浮かぶ。ド定番の黒魔法使いのような服装だ。
紫気味の黒い三角帽、そして同じ色合いのローブ。他と違うところを言うとすれば、布ではなく服としてかたちになっているという所くらいだろう。高めの立ち襟と、襟を繋げるようにヒモが何回か交差している。サイドウェイ(片方によっている)でかぶせた上の布から目線を下げて下を見ると、素朴なベルトでそれが止められている。他には特に目立つアクセサリーもない。
まじまじと二人を見ていると、いつの間にかもう目の前まで来ていた。
「何ぼーっとしてるの? レージ君?」
「ん? ああ、ごめん。」
「それにしても、何なんですかこの恰好。」
「五六が自分で選んだんじゃないのか?」
「そんなわけ無いじゃないですか!」
「はいはい、感動の再会はそこまで! みんな、早速特訓始めるわよ。」
「ルルさん、これは感動じゃ……。」
「うっさい。」
またルルさんににらまれた。やはり怖いな、この人のこの顔。まあ、特訓が始まるから、集中しないと……って、俺何もすることないよな? 今日はウェポンの展開の練習。多分早くてもスキルの使用だろ? だったら俺何も出来ないじゃ無いか。
「ルルさん、俺何すれば良いんですか?」
「ああ、そういえばそうね。んー、じゃあお手本になってもらおうかしら。私は五六ちゃんに近い類の職業だから、四十川ちゃんをお願い。」
「マジですか……。」
何だか言ったことのあるような言葉を言いながら四十川を見ると、気味が悪くなるほどにニコニコとしていた。何だか恐怖すら覚えてくる。
「……どうしたんだ? 四十川。」
「ん? なんでもないよ。ほらっ、早くウェポンの展開の仕方教えてっ!」
「ああ、それなら良いんだけど……。」
疑問が残るものの、今は特訓だ。集中しなければいけない。自分がウェポンを展開したときのことを思い出す。確か今までのことを思い出してって言っていたよな。まあ、とりあえず俺が展開できなければ意味が無い。さっきのことを思い出して試してみる。
「
キラキラという音と共に、俺の右手にはしっかりとあのダガーが握られていた。よし、展開は出来たな。問題は、これをどう教えるかだ。
「うわあ! 凄いねえ、どうやってやったの?」
「んー、今までの思い出を思い出して、タケミカヅチさんに教えてもらったウェポンの名前を言えば出来るはずだ。」
「よし! やってみよう!」
四十川は、張り切ってそう言うと右腕を左手で強くにぎり、真剣な顔つきになった。そしてそのまま目を瞑る。おそらく今までのことを思い出しているのだろう。腕にどれだけの力を入れているのか、プルプルと震えている。呆れていると、やっと目を開けた。
「『
いきなり叫んだかと思うと、四十川の右手にブロックが集まってきた。見た感じだとかなり大きいウェポンのようだ。徐々にかたちが出来ていく。
キュインキュインという音が鳴り響く中で、それは完成した。丈夫そうな木で出来ているように見えるその弓は、多くの勾玉で装飾されていた。だが、肝心の矢がない。
「凄いな、一回で出来ちまうなんて。でも、矢はどこなんだ?」
「え? あ、本当だ、矢がないよ!」
「多分そのウェポンは、多くのスキルが発動するウェポンのようね。職業は『
「すごい! 全部あってる。タケミカヅチさんに言われたことそのまんまだ!」
「伊達に師匠やってないからね。」
韋駄天のメンバーは量より質と言ったところなのだろう。
それは良いとして問題はスキルだな……。多くのスキルを使うとして、今何個のスキルを覚えているのか、そしてそれを習得することが出来るのか。俺の場合はたまたま出来たのかもしれないが、今回はたまたまが起きるとは思えない。
「四十川、お前は何で弓に思い入れがあるんだ?」
「弓は、私が長い間教わっていた事だからかな。」
「そうか。じゃあ、教えてもらったことの中に何か技みたいなのはあったか?」
「いや、弓道だからそういうのはなかったよ。」
「んー、やっぱり鑑定してもらうしかないのか。」
四十川と俺は少し落胆しつつも、今日のノルマをクリアできたので、少し休憩に入ることになった。
五六は泣きそうになりながらウェポンの名前を連呼していた。ルルさんによると、俺たちのセンスが良いだけで普通はああなるという。おびえた子猫のような息づかいになりながら、ひたすら叫ぶその姿は何だかほほえましかった。多分リベリアと重なるところがあったんだろう。
まあ、とりあえず五六もウェポンの習得を完了した。『
だが、ここで考えることは不安ではなく、なぜ杖なのかだ。そこの所を奴に問うと、赤面しながら『魔法少女』という言葉だけを残していった。うん、とんでもなく恥ずかしいことで。
話を戻そう。今日の訓練はここで終わりらしい。五六の苦戦ぶりが功を奏して、夕暮れ近くに帰ることになったからだ。明日は、一人一人違うレッスンをするという。何があるかはわからないが、まずは自分たちの身を最低限でも守れるようにならないといけない。
「がんばりますか……!」
俺は一人ベッドの上で呟いた。
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