十話 シルアの装備

 町に戻って、色々な店を回った。だが、しっくりくるような防具、アクセサリーは見つからなかった。


「どうするか……。」


 どこにいっても、同じような防具ばかり。魔法使いのようなローブ、勇者のようなマント付きの鎧、アホみたいに頑強な重量感のある鎧など。一応ルルさんについてきてもらっているのだが、全く決まらない。


 ふらふらと当てもなく歩き、刻一刻と迫るタイムリミットから逃げるように防具を探していた。


「あのー、どんな防具が良いんですか?」


「んー? 別にどれでも良いんじゃない?」


 たまらずルルさんに聞くことが、こんな感じで何回かあったのだが、全てこの返答。もう、俺はどうすれば良いのかわからないぞ。泣く、うん泣くよ本当に。


 猫背でうつむき、とぼとぼと歩く。どこもかしこも商人の叫び声が響いて、休めそうにない。歩くのが疲れてきた俺は、近くにあった路地に入っていった。少し進んで壁にもたれかかる。


「はあ、疲れた……。」


「何言ってるの。これから稽古もあるんだから早くしなさいよ。」


「はいはい。」


 何もしてくれないのに、急かしてくるお方。理不尽すぎるよね、本当。


 考えてもみろ、この17年間武器も何もない平和な世の中で勉学に励んでいた俺が、異世界きました、ウェポン習得しました、防具買いました、ダンジョン行きました、強い敵を倒してこの世界を救いました、英雄になりました、なんてそんなテンポよく進むわけがない。第一、防具の事なんてこれっぽっちも知らないド素人に丸投げって、あり得なくないか? ああ、これが不遇って奴か。


「さっきからなんで変な動きしてるのよ。気持ち悪いわよ。ほら、早く防具買いに行かないと。」


「あの、もう少しなんか、その……アドバイス的なものはないんですか?」


「……アドバイスね。んー、そうねえ、あなたの『職業』がアドバイスになるかしら。」


「職業?」


「そうよ、職業。私は『回復師ヒーラー』。他には、『戦士ウォリアー』、『魔法使いソーサラー』、『聖騎士パラディン』とかがあるわね。まあ、これはウェポンとスキルの傾向から決めているものだから、主にポジションとかパーティーを組むのに使われるわ。」


「へぇー。で、俺は?」


「んー……『盗賊シーフ』って所じゃないかしら。」


盗賊シーフか……。」


 何でまた盗賊シーフなんて職業なのか。もう少し特別なのでも良いんじゃないか? だって転送されてきたんだよ? もう少しラノベ感あってもよくない? と心の中で愚痴をこぼした。


「で、盗賊シーフの防具なんだけど、盗賊シーフは比較的軽い防具かな。盗賊シーフ特有の早さと回避能力を生かす為にもね。」


「ありがとうございます。参考になりました。」


 口では言ったものの、そもそも良い感じの防具が見つからなかったことを考えていた。やはりこの町で良い物を見つけるのは難しいと思うんだが。


 皮肉を考えながら空を見上げていると、黒い影がいくつも路地の上を吹き抜けるように過ぎていった。この町のことはわからないからあまり推測できないが、おそらく悪い集団の暗躍部隊的なのだろう。まあ、そんなことは良いんだ。とりあえず防具を探さなければいけない。


 ふう、という溜息と共に町の方へ戻ろうとする。だがいつの間にか、路地の左側には来たときにはなかったはずの扉があった。その扉には、何かが書かれた看板のようなものが掛けられていた。『シルアの防具店』と書かれている。明らかに怪しい店なのだが、不思議と安全な気がした。そして吸い込まれるように店に入っていく。


「うわああああ、すげえ!」


 その店は、薄暗い雰囲気の店だったが、そんなことを感じさせないほどに、キラキラとした防具がそろえられていた。決して防具が金色というわけではない。だが、一つ一つからそんなオーラが漂ってきているのだ。


 シンプルな鎧からきれいなシルクのローブ、羽の耳飾りなど色々ある。他の店とは比べものにならないくらいに、こだわっているのが伝わってきた。


「なんだい、若造じゃないか。」


 店の奥からのれんをくぐって出てきたのは、背が低いおばあちゃんだった。背が低いと言うよりは、腰が凄く曲がっている。


「これは、シルアさんではないですか。まさかお目にかかれるとは思ってもいませんでした。」


 ルルさんが敬語で言う辺りから、有名な人だということが伝わってくる。まあ、これだけ厳選された防具があるくらいなら、有名でも不思議じゃないな。


「まあ、『神出鬼没の防具屋』の二つ名は伊達じゃないからね。」


 神出鬼没と言うことは、いきなり現れたのは本当だったのか。それにしてもいきなり現れることが出来るなんて、どんなウェポンを使っているんだ。


「用がないならかえっておくれ。私は忙しいんだ。」


「あ、えと、盗賊シーフの防具ってありますか?」


盗賊シーフねぇ……。あるよ、ちょっと待ってておくれ。」


 シルアさんはそう言っておもむろに立ち上がり、俺のそばにあった箱の中をあさりだす。のぞき込んでみると、色々な服があった。白、黒、赤、青、黄、緑など眼がチカチカしそうな色ばかりだ。


「ああ、これこれ。」


 そう言って引っ張り出したのは、黒いズボンだった。足の下の方にいくにつれて広がっていき、末端はきゅっと締まっている。だぼだぼで何とも素朴なものだった。それを受け取ると、すぐに次の服が渡された。


 次はネックウォーマーのような部分のあるのようなぼろぼろの長い布。ズボンと同じような黒だ。


 次々と服が渡されていく。一つ一つをじっくり見ていられないほどに。


 次に渡されたのは、腰に巻く用の赤い布。次はなかに着る、袖の無い全身タイツのようなもの。スポーツウェアのような生地で、黒寄りの灰色。


 最後に渡されたのは、羽根の耳飾りだった。


「凄いですね……。」


「当たり前だよ、これは世界でも数少ない、モンスターの毛を一本一本紡いで作った防具だからね。そこらの鎧よりも強いよ。」


 そんなに手をかけて作ってあるのか! 凄いな……。思わず感心してしまう。おすすめなんだからこれで良いのだろうが、値段が気になる。


「これっていくらなんですか?」


「全部で200万リコだよ。」


「リコ?」


「リコはこの世界のお金の単位よ。あなたが持ってる金貨一枚で100万リコ。あなた五枚くらい持ってるでしょ。」


 ルルさんが的確な解説をしてくれた。そんなに値が張るのか。家が二つ買える金額の防具……凄いな、桁が違う。いやあ、本当に500円玉いっぱい持ってきておいてよかった。


 俺は会計をして、早速その防具を着た。何とも着心地が良い。実際に着てみると、意外と様になっている気がする。


 ズボンはやはりだぼだぼだが、動きやすい。腰に巻いた赤い布はしっかりとベルトの代わりと、色のアクセントになっている。袖が無いスポーツウェアは、通気性が良いのか何も着ていないような感じがした。


 そしてぼろぼろの長い布は、短いマントのような部分があり、かぶることが出来た。ネックウォーマーと一緒に肩甲骨辺りまでのマント(マントと言えるかはわからないが)。そしてそれの下から膝辺りまで延びる、所々引きちぎったようなデザインの黒い布。


 右の腕にはめられた、シンプルな銀のリスト。左耳には先の方が淡い茶色で、根元が白い羽飾り。


「割と良い感じじゃない。さ、いくわよ。」


「あ、ちょっと待って下さい。シルアさん、このリストと羽根飾りってどんな効果があるんですか?」


「それかい? うーん……確か羽は素早さが倍加するもので、銀のリストは魔法のアクセサリーだから、付ける人によって変わる。鑑定しないとわからないね。まあ、回避能力が上がっていると思うよ。」


「ありがとうございます。」


 『疑問はすぐに解決したい病興味本位』が発動してしまったが、相手の気に障らなかったようで何よりだ。

 路地をでると、すぐに扉が消えた。また次の所へ転移したのだろう。空を見上げると、日が真上に見えた。


「やばい! 訓練に遅れる!」

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