六話 『期待の新星』と『堕落の劣等生』


「は……?」


 ゼロってどういうことだ? 数値的なゼロって事か? となると『堕落の劣等生』になるのか……。


「この『ゼロ』は、数値のゼロでもあり英雄のゼロでもある。」


 英雄のゼロでもある? 数値のゼロなのに何で英雄になるんだ? 真逆の存在になるはずだろ。


 話を聞くごとにどんどんと混乱していく頭。もう何が何だか分からない。


「『ニエンテ』は他の感情よりも強い。だが、その分他の感情よりも弱い。矛盾していると思われるかもしれないが、実はしていない。操るもの次第で強くもなるし、弱くもなるんだ。それに君には良いオリジナルウェポンもあるからね。」


「じゃあ、俺はがんばれば強くなるっていうことですか?」


 いつの間にか乗り出して質問していた。一筋の希望が見えたからだろう。ドキドキしながらタケミカヅチさんの口を見つめる。


「んー、まあそれも君次第だね。」


 返答は普遍的なものだった。それもそうだろう。期待させても絶望させても意味は無いからな。


 タケミカヅチさんは、少しシュンとしてしまった俺をおいて次の話を始めた。


「そして『レベル』のことなんだが……。」


 その言葉を聞いて質問を思い出した。


「あ、そういえば『レベル』とか『スキル』とか『ステータス』って何ですか?」


「まだ聞いていなかったか。んー、そうだねえ。まずは『スキル』についてだ。スキルはウェポンの中で使える技のことなんだ。ただし、オリジナルウェポンはそれのみで使うことになる。簡単に言うと、ウェポンが『職業』でスキルが『そのジョブで使える技』って感じかな。」


 考えながら話してくれていることがよく伝わった。とてもわかりやすい説明だな。ジョブとジョブ固有の技って所だろう。たとえば『盗賊』と『盗み』などのものだ。


「次に『ステータス』だ。多分、これはこの世界の仕組みについて知ってからの方が良いだろう。長くなるけどいいかい?」


 俺は無言でうなずく。この世界の仕組みがよく分かるチャンスだから、聞き漏らしがないようにしなければいけないな。


「じゃあ、いくよ。まず、『ダンジョン』についてだ。ダンジョンは世界各地にあり、未だ未開拓のダンジョンの方が多いといわれている。そしてダンジョンには階層が1~100、またはB100まであるとされていて、ダンジョンによって難易度と階層の数は変化する。未開拓の階層を攻略することが『クエスト』として掲示板などに貼られている。」


「この世界のダンジョンは、階層なのか……。」


「ダンジョンの難易度は星の数で表されて、それに見合うレベルじゃないとそのクエストを受けることは出来無い。うん、ダンジョンについてはこれで良いだろう。」


 レベルによって受けることができるものも変わってくる……か。そこら辺もしっかりしているみたいだな。


「次に『戦闘』だね。基本的に僕たちが戦闘で死ぬことはない。そして血も出ない。痛みはあるけどね。一定量のダメージを越えると強制的にギルドへ転送される。まあ、これを死と捉える人も多い。ただし、注意しておいて欲しいのはあくまで戦闘でのみのことだということだ。」


「と、言うと?」


「基本的に『戦闘状態』と見なされるのは敵と出会ったとき、もしくはダンジョンの中の時だけ。それ以外では血も出るし、死にもするから気をつけてくれ。ギルドに入っていない人は全ての場合で死ぬ危険性が伴うから、農民もギルドに入っていたりする。」


 それって俺が前に骨と戦ったとき、死ぬかもしれなかったって事だよな……? やばいな、まさに九死に一生だったのか。


「少し話がそれたね、元に戻そうか。ダメージの一定量はレベルにより上限がアップしていく。理由は危険度が下がるからだね。それは良いとして、この仕組みはモンスターからヒントをえているんだ。レージ君、なんでモンスターが減らないか考えたことはないかい?」


「……! 確かにそう言われてみれば、不思議な話だな。」


「僕たちはその理由の解明へ向けて、研究をを二十年間続けてきた。その結果、つい最近だがその原因と活用に成功したんだ。」


 活用までできるだなんて……。日本の研究員達も頭が下がるな。本当にどうなっているんだ? この世界は。


「でも、その根源をただつぶすだけじゃつまらないという冒険者からの意見で、モンスターのシステムはそのままで僕たちもそのシステムを利用することになった。モンスターと違うのは死ぬか死なないかだ。モンスターははじけるように死ぬ。それと同時に『泉』と呼ばれる場所で再構築されるんだ。」


 それがモンスターのいなくならない理由か。それなら納得がいくな。


「おそらく記憶なども全て消去されていると考えられる。死んだモンスターは跡形もなく消え、アイテムと金だけ残る。ちなみに泉は色々なところにあるから見つけたからといって不用意に近付いたらダメだ。まあ、百聞は一見にしかず、戦闘は実践して疑問を解いていこう。」


 百聞は一見にしかず……か。うん、まさに異世界って感じだ。自分の目で見て、感覚で覚えていく。自ら開拓していくのは楽しそうだな。


「では、本題の『ステータス』について。ステータスは主にその人の身体能力を表すものだ。HP、MP、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、回避能力の八項目が数値として表れる。内、HPとMPは『パーティー』というくくりの中にいる、ヒーラーと自分のみにだけ分かるようになっている。それも実践していく中でやっていこう。ステータスはモンスターを倒すごとに少しずつアップする。」


 意外とRPGっぽい所なんだな。まあ、それも研究があったおかげだろうが。


「そして『レベル』だけど、これはステータスが一定量上がると上がるものだよ。レベルに上限はないけど99を越えてから一気に上がりづらくなるらしい。僕は今86だったはずだ。君は12だった。最初から二桁なのは珍しい。とまあ、こんな感じかな。長々とごめんね。」


「何か凄いですね……。」


 これが心の底から出た言葉だった。話はだいたい理解できたんだが、『死なない』とか『レベル』とかはいまいち実感がわかない。やはり実践するのが一番なのだろう。


 長い話を集中してずっと聞いていたから疲れたな。限界までのびをしてみるとすっきりした。


「うん、とりあえず君の鑑定はこれで終わりだ。お疲れ様。」


「ありがとうございました。」


 椅子から立って軽く礼をしてから鑑定の間を出ると、目の前の椅子で緊張の面持ちで五六と四十川がうつむき気味で座っていた。そっちに気をとられていると、いきなり腹部に衝撃が走る。おそらく奴だろう。


「少年! どうだったどうだった?」


「何もないから気にするな。」


 面倒くさいので愛想のない返事をすると、リベリアはムッと不服そうな顔をした。そのままにするのはさらに面倒くさいので、頭をぽんぽんとしてやるとすぐにキラキラした眼でこちらに『もっと』アピールをしてくる。本当に小学生なんじゃないかと思ってしまった。


 他愛もないことをしていると、部屋から次の人を呼ぶ声が聞こえる。


「ひゃいっ!」


 五六が珍しく緊張しているようだ。そういえば人見知りだって昔聞いたことがあったな。それにしてもびびりすぎじゃないか? 別に緊張することでもないだろ。ここまで考えたところで少し反省する。早く、ツッコミをしてしまう癖を直さなければいけないな。


 五六は右足と右手を同時に出しながら入っていった。やばいな……。まあ、とりあえず今日はこれで終わりだな。明日はウェポンの習得と特訓があるから休まないといけない。


「楽しくなってきた! これぞ異世界だな!」


 何度目かの、この高揚した気持ち。異世界へ来た理由はない。でも、当面の目標は『異世界攻略』。がんばってみようじゃないか……!

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