一章 謎多きリコルディア
一話 強烈な洗礼
「……っ! うああああああああ!」
全力で起き上がる。とても涼しい。なぜかと思い、顔を上げてみる。目に入るのは、辺り一面の草原とその奥にある山や建物だけだった。涼やかな風に揺れる草木、雲一つ無い快晴、遙か向こうに見える中世的な建物、赤い溶岩が噴き出している火山、そして建物を挟んで反対側には、青みがかったきれいな白い雪山。
「なんだよ、ここ。」
もう何もわからなくなっていた。まさか転送が成功したわけでもあるまいし……。
「って、本当に成功したのか?」
全くわからない。この状況を見る限り成功したってことだろう。でも、あり得るわけがない。そりゃちょっとは信じたかもしれないが……。
「そうだ! みんなは?! ユーリ! 五六! 四十川! 山田!」
かなりの間叫んでいた。誰も見つからない。先組の三人は良いとして、何でユーリがいないんだ。森の奥とか、街とかに飛んでいたのだったら、下手に動いてないといいが。
「ああああもう! 考えても仕方ねぇ! とりあえず人探すぞ人。」
すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。びっくりして、少し跳ね上がる。
「あーあ、来ちゃったよ。忠告したのになぁ。」
そいつは、まさに「冒険者」というような出で立ちだ。背中には大きな剣と大きな盾を背負っていた。嬉しい出会いだが、さすがに胡散臭すぎる。短髪にあごひげ。かなりがっしりとした体格。そして、頑強そうな鎧。
やっぱり転送成功したのかな。まあそれはおいといて、丁度良い。ここのことを聞けるチャンスだ。
「ごめん、会ったばっかりだけど、いいか? 俺迷っちゃってさ。」
男はなぜか黙って俺を凝視している。聞こえなかったかな。それとも、言葉が通じてない? いや、聞いた感じは普通に日本語だったから、それはないな。
「あのー。」
「なんでそんな嘘をつくんだお前は。」
「え……? それってどういう……。」
「だから、何で嘘をつくか聞いているんだ。」
何で俺が嘘をついてるのがわかるんだ。俺の演技、そんなにひどかったか? ……ん? ちょっと待てよ、そういえばこの声どこかで聞いたことがあるような。クラスメート? いや、俺たちしかここに来てないはずだ。先生でもないし。もう! 全然思い出せねえ。聞くしかないか。
「誰なんだ、お前。」
「さあ、誰だろうね。」
「ふざけてんじゃねえよ。」
「落ち着け落ち着け、ヒントくらいは教えてやるよ。んー、これで良いか。いくぞ。」
そう言うと、男はコホンと咳払いをして急に真剣な顔つきになる。緊張が走った。そのピリピリとした緊張感のせいか、先ほどまでのさわやかな風も感じられなくなる。その息苦しい空間の中、男はこう言った。
「お前らはこちらに来てはいけない。来た場合、即刻排除する。」
全身に鳥肌が立った。あの声だ。急に息が出来無くなり、息をしようともがく。全身から汗がだらだらと流れる。俺は殺されるのか? もしかしてみんなはもう……。緊張、恐怖、畏怖、不安、後悔といった感情が一気に心の底からあふれ、意識が遠のいていく。
死にたくない。そんな情けない感情が生まれ、俺の視界が暗くなっていく。もう限界だ……。倒れそうになったとき、腹にとてつもない衝撃を感じた。
「ぐほあっ! げほっげほっ、はあはあ。」
「はあ、どんだけビビってんだ、あんちゃん。死ぬとこだったぞ。」
男にそう言われ、気づく。
「あ、息出来てる。」
そういえばさっきの緊張感もなくなり、さわやかな風が吹いている。生きてるのか俺。するとまた、腹に激痛が走った。
「いってええええええ!」
少し落ち着いたことで、先ほどの痛みがより鮮明に感じられた。今までに感じたことのない痛みだ。いや、当たり前か。
「すまんすまん。ちょっと強すぎたか? ははは。」
笑い事じゃねーよ。こっちは死ぬほどいてーんだぞ。と言おうとするが、痛みでまともに声が出せない。息するだけでも痛みが走って、呼吸がしづらい。
「ま、助けてやっただけ感謝しな。」
ありがたいのにはありがたいが、痛みがいっこうにひかない。どういう事だこんちくしょう。
「何したんだよ。めっちゃ痛いぞ。」
声を絞り出し、質問をする。それを聞くと男は髭をさすりながら、んーと唸った。
「あんちゃんにはまだ早い話さ。なんせ、転送したてだからな。」
「……! 何で転送したこと知ってるんだよ。お前何者だよ! 俺の友達はどうした!」
叫ぶとかなり腹に響いたが、我慢して問いただした。
「そういえば言ってなかったな。俺は、フィンだ。ここの門番みてーなのをやってる。よろしくな。あと、お前さんの友達の件だが、俺の仲間の門番が相手してくれてるだろーよ。」
「なんでわかるんだよ。」
「それは、転生門がここの他に四つあり、転生や、転送、召喚にはどんな例外もなく、この転生門にしか来ないようになっているからだ。」
ここ何年だよ。ハイテク過ぎるだろ。……他に四つか。みんなばらばらに転送したのか? まあ、少なくとも安全ではあってよかった。はあ、と言う溜息と共に安堵の感情が生まれる。
「みんなは無事なのか。それで、ここどこだ?」
「ああ、お前さんの仲間なら大丈夫だ。俺よりは優しいからな。はははっ。あとここは、リコルディア帝国の城下町から少し離れた平原ってとこだ。ちなみにこの平原は、最近モンスターが出没しているから、村人は立ち入り禁止だ。」
それってのんきに喋ってる場合じゃないよな。でも腹が痛くて全然動けない。うつ伏せしてはいるのだが、なんたる破壊力。小学の時に玉を蹴られたとき以来だな。こんな悶絶したのは。
「なあ、早くここから移動した方が良いんじゃないのか?」
「ま、それもそうだな。あんちゃんは動けるのか?」
「かなりきついかと。」
「やっぱ強すぎたか。しゃあない。」
そう言うとフィンは俺を手荒に担いだ。
「うああああ! 何すんだてめええええ! うぐっ。」
「叫ぶと悪化するぞ。」
すまない、もう手遅れだ。激痛がまた走る。まぶたが重い。疲れたな。意識が少しずつ遠くなる。寝させてもらうか。
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