終わりの答え

 二人は考えを巡らしていた。


 雪人は立ち止まりながら、そしてナツはそこら辺を歩き回りながら。


 とはいえ、言い出しっぺの雪人でさえ、なにも良いアイデアはいっこうに浮かばなかった。

 ナツも空やら床やらに視線を何度も往復させるだけで、あまり良い考えは浮かんでいないようだった。


 考えはじめてからは、すでに三十分くらいは経っている。


(あと半分か……)


 雪人は思った。

 多少の焦りが、心の隅から湧いてきている。焦ってはいけないとわかっていながらも止められない。


(なにか手がかりは……)


 雪人はアケの言葉を頭の中で繰り返してみる。

 さっきからずっとやっていることだ。今のところなにも見つからないけれど。


――なにせ君たちにとって死=シミュレートの終了だからさ。残念だけど制限時間はあちらの時間で二時間。君たちはあちらで二時間経ったときに消されてしまうんだ。


(あともう、一時間半だよなぁ)


 そう思ったとき。


(ん?)


 雪人はアケの言葉の変なところに思い当たった。


(普通なら、二時間と言えばそれで済むはずなのに。なんでわざわざ「あちらで」なんて付けたんだろう)


 雪人は、自分ならどういうときにその語句をつけるかを考えてみた。

 

(「あちらで」と言うときは、俺ならばきっと「こちら」とあちらで基準が違うときに使う。たとえば他の国での時刻を言いたいときに、あちらでは八時ですと言うように。

 ならこの世界の時間と、シミュレーションを行っている世界の時間は違う?)


 思えばそうだ。シミュレーションはものすごく時間のかかるものを短時間でやってのけるためのものだ。ならばあちらとこの中の時間は同じだとは言い切れない。


「ナツ!」


 雪人は十メートル先でフラフラと歩いているナツを呼び止めた。


「俺たち残り時間は二時間じゃないかもしれない!」


 そう言うとナツは怪訝そうな顔をして雪人に近づいてくる。


 雪人は自分が気づいたことを話した。


「じゃあその差はどれくらいなの?」


 雪人が全部を話し終えたとき、ナツはの顔は怪訝そうなままだった。


「それはまだ分からない」

「なら不十分だわ。たとえ伸びたとしても一日かもしれないもの」


 しかしそう言ったとき、ナツは何かに気づいたようにハットする。


「そういえば、私とあなたの時間は二年ズレてたわよね」

「二年?」

「そう。あなたがあの黄昏街へ行ったとき、あなたは二年前の日付を言った」

「ああ、そういえばそうだった気がする」

「ところで、あなたが事故にあったのは?」

「今言う必要がある?」

「ええ」


 雪人は渋々覚えている限り正確な日時を言った。


「やはりそうね」


 一人で納得するナツ。


「何が分かったの?」


 するとナツは自信満々で言う。


「実は私もほぼ同じ日時に事故に遭っているのよ」

「いや、あの……よくわからないんだけど……」

「つまりこういうことよ。あなたと私は、だいたい同じ時間に事故にあっている」


 ナツは嬉々として言う。


「それはわかってるよ」

「でもこれは、わかってないわよね。私たちはたった数時間しか差がなかったのに、いつの間にか二年差が出てしまっていた。つまりは、この世界では私たちがもともといた世界の何十倍という速さで時間が進んでいるわけ」

「なるほど!」

「ええ、つまりは残された時間は何万時間とある。なら私たちは当分の間消されないってことよ」

「それならまだ考える時間はあるな」

「ええ!」


――ふふっ、それを見出すなんて、僕もここの番人冥利につきるな。


 横のほうからアケの声がした。

 二人は驚いてそちらを向く。

 するとそこには、二人を見上げつつ笑みを浮かべるアケの姿があった。


「お兄さんたちはすごいね。そんなことも見つけ出しちゃうなんて」

「アケ、戻ってきてくてたの?」


 ナツは驚いたように言った。


「うん、そう。お兄さんたちへの実験はもう終わったから。君たちはもうこの世界にいる必要は無いよ」

「ちょっと待って! ってことはもう消されるのか!?」


 雪人が慌てて言う。

 するとアケは、首を振った。


「安心して。君たちは消えたりしないよ。僕が保証するから。それに僕がさっき言ったのは真実じゃない。これから本当のことを話してあげる。この世界は――」


 アケの話が終わったとき、二人は床に空いた穴の中へと落ちていった。

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