冥界に住む

@Lin29

第1話 現世にさよなら

「俺の名は望月リン、おおよそ高校生……だった。」


この日、一人の高校生が自殺を図った。一命は取り留めたがいつ目覚めるのか分からない意識不明の重体、医者からはもう目覚めることはないと告げられた。


「そっか......死にきれなかったんだ、俺。」

「そうよ。あなたはまだ死にきっていない。これからの行動しだいでこの先どうなるかが決まるわ。」

不思議な声が聞こえた。幼いと妖艶ともとれる妹のような母のような、そんな声だった。



目が覚めた。すると感じる違和感……ここは病院のベッドの上ではないとすぐに気づいた。小さな、しかし暮らすには充分な和室で布団の上にいた。何故こんなところに居るのか?自分はなぜ生きているのか?そんなことを考えていたら足音が聴こえてきた。どうやらこの部屋に向かっているようだ。部屋の前で足音は止まり、どこかで聞いたような声が聴こえてきた。

「そろそろ目が覚めたかしら?」

襖が開きそこに立っていたのはとても美しい女性だった。桜色の着物を着ていて、漆黒と形容するのが相応しい長い髪、背丈は望月より低かった。

「初対面の女性をそんなにジロジロ見るものではありませんよ。これからの行動しだいでどうなるか決まると、そう伝えたでしょう?」

そう言われてやっと気づいた。この声は病院のベッドの上で聞いたあの声だった。



「じゃあ、あんたがここに連れてきたのか?いったいここは何処なんだ?そしてあんたは誰なんだ?」

「私?わたしは碓氷 鏡、そしてここは私のお屋敷よ。」

「お屋敷?俺は病院のベッドの上で寝てたはずだが?」

「そうよ。あなたの肉体はまだあの病院にある。あなたは今生と死の狭間をさまよっているところ。ここは言わば冥界なの。」

「冥界って......そんな馬鹿な!そんな世界があってたまるか!」

「でも、現にあなたはここにいるじゃない?」

「ッ......!!」

「......取り乱す気持ちは分かるわ。私も最初はそうだったもの。でも安心して、最初にも言った通り現世に還ることも出来るわ。」

「現世に戻る?戻ったところで喜ぶヤツなんざ一人もいないさ。」

「そう?それなら永遠にこの世界に住むことになるわ。歳をとらず、腹も減らず、ただただ時間が過ぎて行くこの世界でね。私も来た当初は幼かったなぁ.....もう千年は住んでるわ。」

「何故あんたは戻らない?」

「私はもう戻れないの、この世界は私が管理してるから。」


彼女の声が幼くも妖艶に聞こえたのは永遠にこの世界に暮らしているからなのだと望月は感じた。


「まだこの世界に来たばかりだと魂が安定していないわ。今日はこの部屋でゆっくりしていなさい。」

そう言って碓氷はどこかへ去ってしまった。


布団の中に入り薄いの言っていたことをもう一度思い返してみた。

しかし、碓氷に言われた通り魂が安定していないのか望月は頭が回らなかった。

「言われた通り、今日は大人しくしておくか.....。」

そう思うと望月はすぐに眠りについた。

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