聞こえてきた声

 やがて、灰色の仔猫の上にも美しい虹が架かり、仔猫は目を覚ましました。


 灰色の仔猫が顔を上げたとき、首の鈴が鳴り、耳の奥で声がしました。仔猫は思わず耳をふさごうとしましたが、聞こえてきたのは恐ろしい怒鳴り声ではありませんでした。仔猫の耳に聞こえてくるのは、穏やかで優しい幾つもの声でした。幾つもの声は、灰色の仔猫をいたわるように語りかけ、暖かく包み込みました。



 歌うたいの猫は灰色の猫に微笑みかけます。

「ほら、地上には、きみのことを心配している人たちがこんなにもいるよ。不幸にも出会うことのなかった見知らぬ子たちの身を案じて、心を痛めている人たちがこんなにもいるよ。きみだって、渡し守さんから鈴をもらったんだし、虹だって架かったんだもの。その人たちの声が聞こえるはずだよ」


 灰色の仔猫は、さっきの黒い仔猫と白い仔猫と同じように不思議そうに歌うたいの猫を見ました。

 

「この子たちのおうちの人たちだって、ぼくのおかあさんだって、きみのことを知ったら、絶対にぼくたちと同じように大切にしてくれるよ。きみのこと、心から愛してくれるよ。きみが耳をふさいでいると、その人たちが悲しむよ。地上できみと出会えなくて、助けてあげられなかったっていう後悔で、その人たちはとても悲しんでしまうよ」


 黒い仔猫と白い仔猫も言いました。

「うん、そうだよ。地上のみんなに聞こえるように歌おうよ! いっしょに、みんなで歌おうよ!」

「あたしたちみんな、もう苦しくも痛くもなくて、元気だよってうたいましょうよ!」


 歌うたいの猫はうなずきました。

「そうさ、地上の荷物は、みんな置いてきたんだもの。虹の橋では、苦しいこともつらいことも、なんにもないよ」


 灰色の仔猫はハッとしました。

「ほんとだ。 ぼく、もう、おなかもすいていないし、怪我もしてないし、どこも痛くないよ。地上ではこんなに元気な体だったことはなかったのに……」

 

「ほらね。だから、きみの鈴といっしょに、うたえばいいんだよ」



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